その日の帰りは、あの二人とは会わなかった。恐らく、部活でもやっているのだろう。

代わりに一緒になったのは、鵜児くんだった。

「あっ…」

校門を出ようとした辺りで、ジャケットに身を包んだ鵜児くんの姿が見えたのだった。

「鵜児くん」

名前を呼びながら近寄ると、鵜児くんは優しい笑みで私を見た。

「誰かと思ったら…。今から帰るの?」
「うん。鵜児くんも?」
「そうだよ。方向合ってたら、一緒に帰る?」
「家どっちなの?」
「地下鉄の方」
「じゃあ、ご一緒させてもらおうかな」

背の高い鵜児くんと一緒に歩くと、すぐ傍に頼れる人がいるような気がして安心する。大学の時に仲良くなってから、一緒に歩くたびそんなことを思うようになった。

「保健室での仕事、慣れた?」
「どうにか、ね。頼りになる先輩先生もいるし。鵜児くんは? いきなり担任を任されたんでしょ? しかも三年生の」

風の便りで聞いた話を聞いて、私は仰天した。何と鵜児くんは、鴫城くんや鶴花さんのいる三年四組の担任を任されたらしいのだ。

「さすが三年生、って感じだね。受験のために授業を一生懸命聞いてくれるから、こっちとしてもスムーズに進んで気持ちいいよ」
「クラスの雰囲気はどんな感じなの?」
「皆仲いいよ。男子と女子の距離もそんなにないみたいだし。特に、保健委員の鴫城くんと鶴花さんの二人。知ってるでしょ?」
「うん」
「あの二人、付き合ってるのかな? 休み時間もよくしゃべってるんだけど…」
「あれ、知らないの? あの二人、幼なじみなの」

鵜児くんが目を丸くする。

「えっ、そうなの? …いや~、世間って狭いね~…」

鵜児くんの言う通り、世間というものは、広そうに見えて実は結構狭い。