幸いなことに、さっきの時間で保健室のお世話にならなければならない人はいなかったようだ。

「健康状態で保健室に行くってのも、何か変な感じだな…」

保健室に入ったところで、鴫城くんが呟く。

「でも、これからこういうの増えていくんだよ? …そうでしたよね、先輩?」
「保健委員長と副委員長の、代々伝わる伝統行事よ。…はい、これ」

先輩は、鴫城くんと鶴花さんに一枚の紙を渡した。

「何ですか、これ?」
「これに、ちょっとした挨拶みたいなのを書いて。さっき言ってたみたいなのでいいから。来週までに、お願いできる? 一夜も」
「了解」

保健室を出て教室に向かう二人の姿を見送る。

「…大丈夫かしらね…」

二人が見えなくなると、先輩はため息混じりでこう言った。

「何がですか?」
「一夜よ。あの子、ちょっと俺様的なところがあるから。さっきはやる気なさそうにしてたけど、人前に立たなかったら変わるの」
「…そうなんですか?」
「そうなの。特に女の子の前ではそういうのがあってね。普段は特に興味なさそうにしてるけど、いざ二人きりになるともう、これよ、これ」

そう言いながら、先輩は右手を壁に突き付けた。…なるほど、壁ドンか…。

「まぁ、そういうのが人気でモテるんだけど、今のところ一夜のお気に入りの子は見つからないみたい。私としては、そろそろ彼女の一人や二人くらいできてもって思ってるんだけどね…」

彼女の一人や二人…そういう意味じゃないよね、そう信じておこう…。