「玉生ちゃ~ん、ママですよ~」

鴫城玉生(シギシロ・タマキ)という名で産まれてきた私の一人娘を抱きながら声をかける。だけど玉生は私の腕の中で、気持ち良さそうに寝ている。

玉生が産まれて、一夜明けた今日。私達は病院にいた。

出産自体は家でやったけれど、やはり病院に行く必要がある。昨日駆け付けた救急隊員の人はまだ産声を上げていた玉生を見て目を丸くしていたが、そんなことを言っていた。

「寝てるから意味無いんじゃないか?」
「分かってないな~、一夜くんは。寝ている時でも声をかけたら、記憶に残ってるもんなの。それに、ここは病院。そう頻繁に来る所でもないから、病院の雰囲気よりも私達に慣れてもらわないと。…ほら、一夜くんも何か言ってあげてよ、玉生に」
「…何て言えばいいんだ?」
「何でもいいの。『パパで~す』とか、そんな感じでもいいから」
「…パパで~す…」

一夜くんは私が今まで見た中で一番顔を赤らめていた。

「…全く、恥ずかしがり屋なんだから…ゴメンね~、玉生ちゃん。パパがこんなので…」
「こんなのって何だよ? …俺じゃ不満か、日向?」

一夜くんの顔が近くなる。

「…そんなことないよ。だって一夜くんは…」
「こんにちは~」

病室のドアが開く。先輩、鵜児くん、それに理事長の三人が、様子を見に来てくれた。

「…あらら、お邪魔だったかしら?」

先輩にそう言われて初めて、一夜くんと私の顔が予想以上に近くなっていたことに気づいた。

「あっ…いえ、そんなこと…」
「ふふっ、冗談よ」

赤ちゃんというものは感覚が鋭敏なのか、先輩が口を開いたその瞬間に目を開けた。そして、産まれた瞬間と同じように、元気な声で泣いた。