記憶にひびが入り、息をするのすらやっとだった。

「…一夜…」
「…」

先輩と鵜児くんの目も、点になっていた。

「別に隠すつもりはなかったけど…ほら、料理にケチつけると後で面倒くさそうだろ? …でもな、日向」

いつの間にか、一夜くんの顔は私の顔のすぐ傍に来ていた。こういう時、普通ならキュンとするんだろうけど、今の私はそうじゃなかったというか、そう感じる力を失っていた。

「味は薄かったけど…日向のカレーは、美味しかった」
「えっ…?」
「味じゃない、何かが入ってた」

頭の上に乗せられていた手が、今度は肩に乗せられる。

「日向」
「…一夜くん…」

顔が向かい合う。そしてどちらからともなく、唇を重ね合わせた。唇を通して、一夜くんの気持ちも、私の気持ちも、お互いに伝わっていればいいな。閉じられたまぶたの裏に、そんな言葉が浮かび上がった。唇の温かさのせいだろうか、私がゆっくりとほぐれ始め、掌をようやく広げられた。

「…ねぇ、双生」

先輩が言う。鵜児くんのことを「双生」という名前で聞くのが、どこか新鮮だった。

「二人を…学校に戻してあげられない?」
「学校に?」
「…二人は何も悪いことはしてないでしょ?」
「それは…皆知ってることだと…」
「でも二人は純粋だから、受け入れるしかなかったんだと思うの。それに…天保さんのこと、双生だって許してないでしょ?」
「…」
「…結局、あの夜は何も解決しなかったじゃない。ちゃんとけじめをつけないと」