萌絵という女の子に、そっぽを向かれていた私。

一方の雪間くんは、

(クックックッ。お…面白れー。結のヤツ。やっぱり、見てて飽きないわ、こいつ。)

俺はというと、心の中で笑っていた。

だが、ふと、結とあいつとのことを考えていた。

あいつ……。

結が、恋い焦がれている、あいつ。

俺の知らない結のことも、きっと知ってる男。

そんなことを考えるだけで、虫酸が走る。

(あいつとは幼なじみって言ってたっけな。)

俺は初めて会った時から、あいつが大嫌いだった。

(クソッ、思い出したくもない。)

あれは、俺が中学3年生の時だった。

初めて、瑠璃さんが『あいつ』、『春名高行』を『男友達』として、俺に紹介してきた。

「梶、この人、紹介するね。春名くんよ。」

瑠璃さんが紹介した男を、興味なさそうに、チラッとだけ見た俺は、次の瞬間、その男の顔を凝視して、びっくりした顔で、息を飲んだ。

「ウフフッ。梶、驚いたでしょう?キレイな顔立ちの男の人って、いるものよねぇ。」

瑠璃さんは、まるで自慢げにそう言った。

すると、その男は、

「雪間梶くんって言うんだよね。浅葱から、話は聞いてるよ。俺は春名高行。よろしくな。」

と、涼しげな顔で笑って、俺にそう言ったんだ。

だが、俺は、返事をしなかった。

なぜって?

きっと、こいつは、『俺の嫌いなヤツ』だと、分かったからだ。

優しい性格の爽やかな男。

俺が最も嫌いで、最も苦手とするタイプの男。

こいつは『その部類』に、ピタリと当てはまる男だった。

そして、俺は心の中で、毒づいてた。

(何で、俺がこいつに『よろしく』なんてされなきゃならないんだよ!?瑠璃さんは、こいつに俺のこと、ペラペラと喋ってるのか?)

そう思ったら、俺はだんだんとイライラしてきた。

瑠璃さんは、

「梶!春名くんに失礼でしょ?返事ぐらいしなさいよ!」

瑠璃さんは、そう怒って、俺に言ったが、返事をする気は、毛頭なかった。

俺は、『嫌いなヤツ』とは口を聞かない。

瑠璃さんが、一番よく知っていたはずだ。

俺が『こういう男』を『嫌い』なことは……。

それなのに、こうして、わざわざ俺に『紹介』した。

ということは……。

「何?もしかして、こいつ、瑠璃さんの男?」

俺は、やっと口を開いて、瑠璃さんにそう聞いた。

すると、瑠璃さんは、真っ赤になって、

「…ちっ…、違うわよ!春名くんは、ただの『友達』よ。梶、変なこと、言わないで!」

どもりながら、そう答えた。

あいつはというと、爽やかに笑っていた。

ふーん。ただの『友達』。

瑠璃さん、丸分かりだよ。

なるほどねぇ。

そいつのことが好きで、俺が『嫌いなヤツ』と分かってて、紹介したな。

おそらく、瑠璃さん、一目惚れしたな。

俺は、直感でそう思った。

瑠璃さんは、昔から『顔のイイ男』に弱い。

中身、確かめもせずに『惚れる』からなぁ。

過去、それで何回か失敗してた。

俺は、そんな瑠璃さんを見てきたが……。

瑠璃さん、相変わらずだな。

懲りてはなかったんだな。

だから、きっと俺は、たぶん、『品定め役』。

そう。

俺に『こいつ』が『大丈夫な男』なのか、『見極めろ』ってことだ。

こいつは……。

『俺の嫌いなヤツ』=『合格』ってことだ。

だから、こいつは、『外見』も『中身』も『良い男』だってことだろう。

皮肉な話だが、『俺』はかなり『ひねくれた性格』をしている。

女には、それが、『意地悪で毒舌家』って、うつるらしい。

まぁ、確かに、当たってはいるが……。

話は戻るが、『俺が嫌いなヤツ』は、大抵、『中身のある男』だ。

『そういう男』を嫌う俺は、かなりの『変わり者』だ。

だが、だからといって、『中身のない男』は、もっと『お断り』だ。

本当に、自分でも自分が分からない時がある。

俺は、それなりに『友達』はいてるが、『ホントの本音』を話せるのは、『ショウ』しかいてなかった。

『ショウ』こと『中臣彰吾』。

ショウとは、中学1年生の時に同じクラスになった。

最初は、俺はショウを避けていた。

なぜか、『怖かった』のだ。

ショウは、見た目は『校則違反』ものだったが、根は真面目で、教師たちの受けもなかなか良かった。

他の生徒からも、信頼され、慕われていた。

そんなショウは、なぜか、妙に勘が鋭かった。

だから、俺は避けていたのだ。

『俺』の『性根』を、全部見透かされてしまう気がしたから、あえて、関わらないようにしてきた。

だが、『ある事』がきっかけで、俺とショウの『距離』がぐっと近くなった。

その『ある事』は、今はあえて言わないでおく。

でも、それが、俺とショウが仲良くなるきっかけに繋がった。

今では、『何でも話せる親友同士』だ。

俺はショウが好きだった。

もちろん、『人間性』がだ。


話を元に戻そう。

瑠璃さんは、とにかく『男友達』が多い。

こうやって、俺に何度も、男友達を紹介したことはある。

無論、その中には、『瑠璃さん目当て』の『ろくでもない奴』もいたが……。

もちろん、そんな奴は、俺が後で制裁を加えて、追い払っていた。

でも、『こいつ』だけは違った。

明らかに『瑠璃さんのほうがこいつに惚れてる』のが伝わってきて、それにイライラした。

別に、俺は『瑠璃さんに惚れてる』ワケじゃない。

確かに『憧れ』てはいたけど、それは決して、『恋愛感情』ではない。

それは『自信』を持って言える。

ただ、今まで、『幼なじみ』として『俺』だけに向けられていた視線が、『違う男』に向く。

そのことにイラついていたんだ。

俺の醜い嫉妬心……。

そんな感情を持つ自分自身にもイラついた。


だが、そんな俺にも、やっと『好きな女』ができた。

『紅林結』。

そいつは、別段、綺麗でもないし、どこにでもいる、フツーの女だった。

でも、俺の周りにいる女たちとは違う。

全然、俺の端正な顔を見ても、見向きもしなければ、興味もないって感じで……。

しかも、この俺に口答えをしてくる女。

(この女、面白い!)

最初は、そう思っただけだったのだが、知っていくうちに、だんだんと惹かれていって……。

気づいたら、好きになっていたんだ。

でも、『好きな女』を見ていれば、おのずと、その視線の先に誰がいるのか、分かってしまう。

その視線の先にいるのは、

『春名高行』だった。

また、お前か?

『瑠璃さん』だけじゃなく、俺の『好きな女』までも奪っていくのか……。

俺の中のどす黒い嫉妬心が、渦巻いていく。

(やっぱり、お前なんか、大嫌いだ!!)

俺は、心の中で叫んでいた。