俺は、『神様』とやらを信じてはいない。

まったくだ。

でも、今回ばかりは、その『神様』とやらを信じないわけにはいかなかった。


ある日。

俺が中庭を歩いていた時、ふと見上げると、結の姿があった。

ドキンッ!

俺はときめいたが、すぐに冷静になる。

(結のヤツ、あんなところで何してるんだ?)

そうなのだ。

結は木に登って、何かをしている様子。

俺には、まったく気づいていない。

ニャーッ

その鳴き声を聞いた俺は、結の視線の先にあるものを見つける。

そして、俺は理解した。

結は、木に登って降りられなくなった子猫を助けようとしているんだと。

「おい、大丈夫か?」

俺は、結に声をかけた。

「雪間くん!?」

結は、そう俺の名前を呼んで、びっくりした顔をしたが、

「雪間くん、邪魔しないで!ほら、大丈夫だよ。」

優しげに子猫にはそう言うと、ゆっくりと近づいていき‥‥‥‥。

その両腕に子猫を抱き、

「もう大丈夫だよ。」

満面の笑顔で、子猫に向かって、そう言ったんだ。

ドキンッ!

俺は、その笑顔を見て、胸が高鳴った。 

ちくしょう。

我ながら情けないが、子猫がうらやましすぎる。

結にあんな風に笑いかけてもらえるなんて‥‥‥。

俺が、そんな風に思ってた時だった。

バキッ!

枝が折れる音がして、結が子猫と一緒に落下しそうになったのだ。

(危ない!!)

俺はとっさに、駆け寄ると、結と子猫を庇うように、下じきになったのだった。