「彰吾。今日はありがとうな。付きあってくれて。」

『春名先輩』の電話は、『新しい服を買いたいので付きあってくれ』。

と、そういうものだった。

緊張して、電話に出た俺は、それを聞いた途端、一気に脱力した。

やっぱり、『春名先輩』は、前とどこも変わっていない。

喜ぶべきなのか?

それとも、悲しむべきなのか?

俺には、さっぱり分からなかった。

あんなことを言っておいて、この人は‥‥‥‥。

う〜ん。

俺がそんな風に考えていた時、急に春名先輩が言った。

「なぁ、彰吾。俺もお前のことを『ショウ』って、そう呼びたいな。」

普段とは違う、悪戯っぽい笑みを浮かべて、甘えるような感じで‥‥‥‥。

「えっ!?」

俺は、びっくり顔をして、そんな春名先輩を見つめた。

ドキンッ!

俺は、そんな春名先輩に、ときめいてしまった。

「えっ!?‥あっ、あの‥‥‥‥?春名先輩‥‥‥‥?」

春名先輩は、そんな狼狽えた様子の俺を見て、クスリッと笑うと、

「だって、俺たち、もう『付き合ってる』んだろう?だから、『ショウ』って呼んでもいいじゃないか。」

春名先輩は、しごくあっさりと、そう言った。

俺は驚いた。

いつの間に『俺と春名先輩』が付きあってることになってるんだ?

確かに俺は、春名先輩が好きだ。

だけど、俺はまだ、『あの時の返事』をしていなかった。

「‥ちょっ、ちょっと待って下さい!『俺たち』は、まだ付きあってるというワケでは‥‥‥。


俺がそう言うと、春名先輩は、

「違うのか?そうかぁ。俺、てっきり、無言の肯定が『俺の告白の返事』だと思ってたんだけどなぁ‥‥‥。」

いつもの笑顔を見せると、そう言った。

その言葉にその笑顔は、反則だろう?

俺は、そう思った。

だって、春名先輩にそう言われたら、俺は、反論できないじゃないか‥‥‥‥。

「俺たち、付きあってるんじゃないのか?」

もう一度、春名先輩がそう言った。

しかも、俺の手を繋いで、恋人繋ぎをしてきた。

俺は、顔を真っ赤にして、ようやく観念して言った。

「付きあってます!」

「オッケー!ショウ、俺のこと、『高行』って、そう呼んで。」

春名先輩は、にっこり笑って、さらなる要求を‥‥‥‥。

この人は‥‥‥‥。

でも‥‥‥‥。

「いやいや!それは、絶対無理です!!」

俺は、それだけは断固拒否した。

そんな風に、春名先輩のこと、呼べるわけないじゃないか。