私はやっとのことで、教室に戻ってきた。

そんな私に雪間くんは、

「遅いぞ!お前は鈍ガメか?」

と、しつらつな言葉を投げかけてくる。

(そんな風に言うなら、自分で買いに行けばいいのに……。)

私はそう思ったが、

「はい、これ。雪間くんの昼ご飯。」

そう言って、雪間くんに渡す。

そして、雪間くんの財布も返そうとした時、その財布がないことに気がついた。

「え!?」

(…うっ…ウソ!?もしかして、どこかに落とした?)

私はパニックになる。

そんな様子を見た雪間くんが、怪訝そうな顔をして、察したのか、

「まさか、お前、財布、無くしたのか?」

そう言った。

雪間くんの怒りを買うだろうと思い、私が身構えていたその時、

「ほら。これ、雪の財布。」

そう言って、茶髪の髪の男の子が、雪間くんに財布を手渡した。

そして、

「雪、あんまり、結ちゃんをイジメるなよ。」

そう言ってくれた。

彼の名は、中臣彰吾【なかとみしょうご】くん。

雪間くんの中学時代からの親友だ。

中臣くんは、見た目は派手で、チャラく見えるが、根は真面目な人である。

こうやって、雪間くんにイジメられている私に助け舟を出してくれる、イイ人だ。

「ショウ、その財布、どこで拾ったんだ?」

雪間くんは、私をイジメるネタが欲しいのか、中臣くんに聞いている。

「いいや。通りがかりに、春名先輩に渡されて……。」

中臣くんが、そこまで言った時だった。

雪間くんが眉根を寄せると、不快感を露にして、

「何で、あいつが『俺の財布』持ってたんだ?」

そう厳しい口調で、聞いてきた。

なぜか、雪間くんは高ちゃんのことが嫌いらしい。

その理由は、私にもよくは分からないんだけど……。

「さあ。ただ、春名先輩が、『雪間に渡しておいてくれ』って言われて、渡されただけだよ?」

中臣くんは、それ以上は『分からない』といった顔でそう言った。