オレは、ふぅ〜とため息をつきながら、うんざりと、ソファーに座って聞いていた。

高兄の小言を‥‥‥‥。

「蒼!!一体、どういうことなんだ!?」

「どうしたもないよ。これから、この家に住むことにしたんだよ。」

オレは、しごくあっさりと、そう答えた。

「母さんは、承知してるのか?」

高兄が、そう神妙な顔で、聞いてきた。

「当たり前だろ?じゃなきゃ、こっちには来れないだろ?あっ、そうだ。すでに親父のほうにも了承済だからさ。」

オレは、それだけ言うと、自分の部屋になるであろう所に行こうとする。

「蒼。」

その時、その一部始終を見ていた結が、オレを呼んだ。

「何?」

「じゃあ、蒼はこれから、ずっとここにいるってこと?」

結は、オレの顔を見つめながら、そう聞いてきた。

「あぁ、そうだよ。迷惑?」

「迷惑なんかじゃない。蒼が帰ってきてくれて、すごい嬉しい!」

結は、満面の笑顔になって、そう言った。

(やっぱり、結ってこういうとこ、かわいいよな。)

オレは、心の中でひとりごちりながら、ドキドキと、ときめいていた。

勝ち気なわりには、素直なんだからな。

オレは、『佑宇樹蒼』。

そして、結こと、『紅林結』。

オレたちは、生まれた日が一緒だった。

そして、家が隣同士、親同士も仲が良かったので、自然と一緒にいることが当たり前になっていた。

だけど、突然の別れ‥‥‥‥。

高兄が6歳、オレが5歳の時に、両親が『離婚』した。

原因は、お互いの不倫だったらしい。

まぁ、親の不始末なんて、オレにはどうでもよかった。

高兄は親父に、オレは母さんに、それぞれ引き取られることになった。

だが、オレは母さんと、遠くへ引っ越しをして、暮らすことになってしまった。

『結と離れてしまう』。

オレは、そのことのほうが『重要』だったのだ。

だって、オレは結のことが『大好き』だったから‥‥‥‥。

だが、結が高兄を好きなことは、知っていた。

だからこそ、結と離れたくなかった。

きっと、結は今でも、高兄のことが好きだ。

だから、それを確かめるために、オレは、結に近づくと、高兄には聞こえないように、その耳元に意地悪く囁いた。

「まだ、高兄に『不毛な片想い』、続けてんの?」

それを聞くなり、結は真っ赤になった。

あぁ、そうかぁ。

やっぱり、まだ、高兄のことが好きなんだ。

恋敵が高兄かぁ。

キツいなぁ。

でも、負けるワケにはいかなかった。

例え、高兄にも‥‥‥‥。

だって、この『恋』は、『一生もん』だからな。

オレは、久しぶりに会った結を見て思う。

これは予感だ。