保健室へ着くなり、俺は、ベッドに寝かされていた。

(春名先輩は、相変わらず、心配性なんだからな……。)

俺は、そう思いながらも、春名先輩が今、自分だけに目を向けていてくれてることが、すごく嬉しかった。

「本当に彰吾、熱計らなくていいのか?」

春名先輩は、心配そうに、そう言った。

「…大丈夫です。寝てれば、治りますから……。」

「そうか?」

そう返事した春名先輩だったが、すぐに保健室から出ずに、ベッドの脇にある椅子に座った。

「春名先輩、もういいですよ。俺、一人で大丈夫ですから……。」

心配してくれるのは嬉しいが、これ以上、二人っきりはまずかった。

さっきから、ドキドキが止まってくれない。

俺は、赤くなった顔を隠すように少しだけ布団を被って、チラチラッと、春名先輩を見ていた。

「彰吾。」

突然、春名先輩が話しかけてきた。

「はい?何ですか?」

「結のこと、ありがとうな。」

そう言った。

「えっ!?」

「結から、いろいろと聞いてるよ。雪間にイジメられた結をいつも励ましてくれてるってさ。」

「…………」

俺は、そこで黙ってしまった。

春名先輩は、やっぱり、『心の奥底』では、結ちゃんのことが『好き』なのではないか?

そう思ったら、胸の奥がギュッと痛くなった。

『二人の固い絆』。

結ちゃんと春名先輩には、それがあるような気がした。

だからこそ、思った。

(やっぱり、俺、春名先輩のことが好きだ。どうしても、諦められない……。)

これから先、きっと、ここまで好きになれる人には巡り会えない……。

そう思ったら、

「好きです。」

つい言葉に出して言ってしまっていた。

春名先輩は、にっこりと笑うと、

「俺も彰吾のことが好きだよ。」

あっさりとそう言った。

だが、その後に、

「だって、彰吾は大切な『友人』じゃないか。」

そう言ったんだ。

ああ、やっぱり、そうか……。

分かっていた……。

そんなことは……。

でも、でも、ここで、『俺の本当の気持ち』を言わなければ、きっと後悔する。

そう思ったんだ。

だから、

「俺の『好き』は、『違います』。『そういう意味』の『好き』です!」

俺は、真っ赤な顔でそう言ったに違いない。

言った……。

言ってしまった……。

とうとう、『自分の気持ち』を……。

そんな俺の表情と様子を見て、やっと春名先輩にも分かったらしい。

ちょっと驚いた表情をしていた。

春名先輩に、『好きな人に初めて告白』できた。

それだけで、良かった。

後は嫌われようと、煙たがれようと……。

そう思っていた時だった。

「ありがとうな。」

春名先輩がそう言ったんだ。

いつものにっこりした笑顔で……。

「えっ!?」

俺は、一瞬、驚いてしまった。

「…はっ、春名先輩!?」

上ずった声で、名前を呼んだ。

「彰吾、こんな俺を好きになってくれてありがとうな。だけど……」

春名先輩が、そこまで言った時、

「分かってます。春名先輩が、断ることぐらい……。だって……」

俺もそう言いかけた時、春名先輩は、

「違うよ。彰吾、考えさせてくれないか?」

意外な答えを出したんだ。

「へっ!?」

俺は思わず、すっとんきょうな声を出してしまった。

そして、

「…はっ、春名先輩!?分かってます?俺、『男』ですよ?」

まさか、春名先輩の答えが、『考えさせてくれないか?』とは、思わなかった……。

「だって、それが、『彰吾の気持ち』だろ?それなら、俺なりに考えて、『答え』を言うよ。だから、時間をくれないか?」

と、そう言ったんだ。

それが、春名先輩なりの『答え』……。

俺は、あまりの意外なその『答え』に戸惑いを隠せなかったが、それと同時に、甘いときめきを感じていたんだ。