(もう何で何で、いつも私ばかりに頼むのよ。)

私は購買部のおばさんがいる所へ走りながら、そう心の中で思う。

私、紅林結【くればやしゆい】。

ごく平凡な普通の女の子。

特別、可愛いわけでもない。

フツーの顔立ちをしている。

そんな私に構って、雪間くんはどこが楽しいんだろうか?

(それよりも、周りにあんなにキレイな女の子たちがいるんだから、そっちに構ってくれると、私は助かるんだけどなぁ。)


(やっと着いた……。)

私は息を整えながら、前を見る。

いつもながらに、昼ご飯目当ての生徒たちでいっぱいだった。

でも、雪間くんの昼ご飯を買わなければならない。

だが、雪間くんの指定するパンはいつも大人気で、すぐに売り切れてしまう。

(本当にそういうとこがイジワルなんだから……。)

心の中で毒づく。

意を決して、ごった返す生徒たちの中に入ろうとしたその時、

「結もパン買うのか?」

涼しげな声で声をかけてきたのは、

「高ちゃん。」

『高ちゃん』こと、春名高行【はるなたかゆき】。

私の一つ年上の幼なじみ。

優しくて、キレイな顔立ちをしているので、あの雪間くんと女子たちの人気を二分するほどである。

「違うよ。これから、買うのは、雪間くんの分。」

私がそう言うと、

高ちゃんは、

「お前、またか?」

と、少々、呆れ顔の様子だったが、

「何、買ってくればいいんだ?」

そう言った。

「えっ!?高ちゃん、いいよ。私、自分で買うから……。」

だが、高ちゃんは、

「いいから、買ってきてやるよ。そこで待ってろよ。」

と、言ってくれた。

昔から優しくて、頼りになって、男らしい、高ちゃん。

私は昔から、高ちゃんが大好きだった。

もちろん、『恋愛対象』として……。

(どっかの誰かさんとは違うんだから……。)

私は、雪間くんと高ちゃんを比べていた。

そして、高ちゃんのおかげで、雪間くんの昼ご飯を無事ゲットすることができたのだった。