私が、雪間くんにキスされ、会議室から出て行って、渡り廊下を歩いている時、偶然にも、中臣くんが向こうから歩いてくるのが見えた。

(…どうしよう……。私、今、きっと、すごい泣きはらした目をしてる……。)

だが、中臣くんも私に気づいたらしく、私のほうへ走ってくると、私の前で立ち止まって、

「結ちゃん。あれ?雪と一緒と違ったの?…って、どうしたの、その目?結ちゃん、雪と何かあったの?」

そう心配そうに聞いてきた。

でも、『雪間くんとのキス』のことは、言えない……。

私は、

「…ううん。何でもないの。だから、大丈夫。心配しないで。」

と、精一杯、大丈夫そうに答えたつもりだったが、

「結ちゃん、何を強がり言ってるの?俺でよければ話を聞くよ。」

中臣くんは優しく言ってくれた。


人気のない所で、私は、中臣くんに、雪間くんとあったことを、結局、すべて話してしまっていた。

中臣くんは、

「まったく……。雪の奴、いきなり何やってるんだよ。」

そうひとりごちに言うと、

「結ちゃん、雪には俺からよく言っておくから、もう安心して?ねっ?」

そう言って、にっこりと笑うと、私の頭をポンポンッと、いたわるようにしてくれた。

中臣くんは、私が、南方先輩たちに囲まれて、キツいことを言われた時も、こうやって励ましてくれた。

そして、今もまた、こうしてくれている。

中臣くんは、私にとって、『安らぎの場所』だった。

そして、雪間くんとは、『対等の立場』で物事が言える『唯一の人物』。

「中臣くん、聞いてくれてありがとう……。私ばっかり、ごめんなさい……。」

そうなのだ。

私ばっかり、『聞いてもらう立場』で、中臣くんのことは聞けていない。

そんな風に言った私に、中臣くんは、

「いいんだよ。俺と話して、安心して、結ちゃんの『笑顔』が見れるなら……。だから、もうそんな顔してないで笑ってよ。俺、結ちゃんが笑った顔が『好き』なんだ。」

そんなことを言ってくれる。

私は、その中臣くんが言った『好き』と言った言葉にドキリッとしていた。

たぶん、中臣くんは、何気なしに言ったのだろうと思う。

だけど、私には、『その言葉』が、『淡い告白』みたいに聞こえて……。

でも、たぶん、私の『気のせい』だろう。

私は、そう思い、中臣くんに笑顔を見せて、

「中臣くん、聞いてくれて、本当にありがとう。」

そう言った。