「おい、結」

雪間くんが、私を呼んだ。

私は、『またか』と思いながら、

「何よ。」

面倒臭そうに、嫌な顔をしながら、返事をした。

すると、雪間くんは、なぜか、私の隣の席へきて、座ると、私をジッと見つめてきた。

(ん?何だろう?人の顔を見つめて……。)

不思議に思っている私に、雪間くんは、こう言い放った。

「結、ちょっと来いよ。」


授業が始まる前に私は、雪間くんに会議室に連れて来られていた。

(今度は何をするつもりなんだろう?)

私が、身構えて警戒していた時だった。

雪間くんが突然、ツカツカッと私のほうへ来たかと思うと、いきなり抱きしめてきた。

(ええっ!?なっ、何!?私…雪間くんに抱きしめられている……?…どっ、どうしよう……?)

私は、びっくりして、一瞬、頭の中が真っ白になった。

ドキンッドキンッドキンッドキンッ

胸の鼓動が早くなり、高鳴っていく。

抱きしめられている相手は雪間くんなのに……。

私は、しばらくの間、雪間くんに抱きしめられていた。

だが、ハッと我に返る。

このまま、雪間くんのされるがままになってたら、ダメだ。

「…ゆ…雪間くん、離して……。」

私は、そう言うと、身をよじって、雪間くんの中から逃れようとするが、雪間くんは、それを許してくれない。

すると、雪間くんは、私から身体を少し離すと、いきなりキスをしてきた。

私は、雪間くんに抱きしめられながら、そのまま二人はキスをしていた。

「!?」

私は驚きのあまり、目を見開き、雪間くんのキスを受け入れてしまっていた。

だが、その時、ふと高ちゃんの顔が頭をよぎった。

ドンッ!!

そして、気がつくと、雪間くんを、思いっきり突き飛ばしていた。

雪間くんは、少しよろめいただけで、すぐに体勢を元に戻した。

「…どうして……?…ど…どうして……、こんなことするの……?そんなに私をイジメて楽しいの?」

私は、唇を噛み締めて、ポロポロと泣きながら、そう言った。

雪間くんは、一瞬、辛そうな、切なそうな、そんな顔をした。

(えっ!?)

私も、雪間くんのその顔には驚いたが、だが、すぐにいつもの雪間くんの顔に戻った。

私は、

「…雪間くんなんて、やっぱり『大嫌い』!!」

そう言うと、泣きながら、会議室を飛び出した。

だけど、会議室から走ってる間も、一瞬だけ見せた雪間くんの辛そうな、切なそうな、あの顔を思い出して、忘れることができなかった。

そして、私は立ち止まり、涙を拭うと、

(私…、『好きでもない人』と、しかも、『大嫌いな人』とファーストキスしちゃったんだ……。)

私の唇に残る、雪間くんの唇の感触。

そう思うと、一旦は泣き止んだ涙が、また自然と溢れ出てきていた。