「おい、結。」

俺が呼ぶと、

「何よ。」

まるで苦虫を紙崩したような顔で、俺を見ながら、反抗的に返事をしてきた。

(やっぱり、こいつ、いいわ~。)

なぜ、そんなにいいと思ったのか、俺は自分でもよくは分からなかった。

だが、俺が結に惚れてる欲目はあるのかもしれない。

そんなことを心の中でそっと思いながら、結の隣の席に座った。

「何よ。雪間くん、何か用?」

結は訝しげに俺を見つめて、そう聞いてきた。

俺は、結の顔をジッと見つめていたが、

「結、ちょっと来いよ。」

そう言って、結の腕を引っ張り、強引に教室の外に連れ出した。


「…ちょっ、ちょっと……。雪間くん、もうすぐ、授業、始まるよ。」

結は、ちょっと腕が痛そうに抵抗していたが、俺はきつく腕を握って離さなかった。

俺と結は、会議室に入ると、俺は、後ろ手に扉を閉めた。

「…なっ、何よ。こんな所に連れてきて……。」

結は、いつものように、俺にイジメられるのだと思い、身構えて警戒している。

無論、イジメる気ではいるが……。

それよりも、俺は、結に『触れたい』と思った。

俺は、身構えている結に近づいていった。

そして、いきなり抱きしめたんだ。

結は、きっとびっくりした顔をしているに違いない。

そう俺は思っていた。

だって、俺に抱きしめられた瞬間、身を固くしたからだ。

きっと、俺に、『こんなことをされている』という事実が信じられないのだろう……。

「…ゆ…雪間くん、離して……。」

と、そう言い、俺の中から逃れようとした。

だから、俺は、結がもっと驚くことをした。

抱きしめる腕を緩めて、いきなり結の唇に口づけたのだ。

「!?」

俺が、薄目を開けて結を見たら、ものすごく驚いた顔をして、俺にキスをされていた。

俺は、『好きな女』とキスができて嬉しかった。

自慢じゃないが、女にはモテる俺だが、キスは初めてだった。

純情ぶってるワケじゃないが、『ファーストキス』は、『好きな女』としたかった。

それが俺の『想い』。

俺が、そんな風に思っていた、その時だった。

ドンッ!!

結が、思いっきり俺を突き飛ばした。

思いっきりといっても、そこは『女の力』だ。

俺は、少しよろけただけで、すぐに元の体勢に戻った。

結は、唇を噛み締めて、ポロポロと泣いていた。

そして、

「…どうして……。…ど…どうして……、こんなことするの……?そんなに私をイジメて楽しいの?」

そう聞いてきた。

俺は、

『お前のことが好きだからだ!!』

いっそのこと、言ってしまいたかった。

だけど、お前は、『あいつ』のことが好きなんだろう?

フラれるの分かってて、そんなこと、言えるワケないじゃないか?

そんな恥ずかしいこと、お前に言えるワケないじゃないか?

「…雪間くんなんて、やっぱり『大嫌い』!!」

結は、一言、そう言うと、泣きながら、会議室を飛び出した。

そんなこと、知っていたさ。

『お前』が『俺』を『大嫌い』なことは……。

だから、お前に触りたいのとイジメるつもりで、お前にあんなことしたんじゃないか。

なのに、当の自分自身が、こんなに傷ついたりして……。

(バカだ、俺は……。)

「クソッ!!」

そう言うのと同時に、俺は、力任せに思いっきり、机を蹴飛ばした。