【爽輝目線】


「・・・気味わりぃ・・・・・・」
さっきまでの暖かな風と爽やかな空気は何処へやら、寒ささえ感じる闇。この森はこんなに暗かったのか。
俺達5人は、その中を歩いていた。
ここが魔物の生息地だからだろうか、会話は既に途絶えていた。・・・先頭に立つ里雨と咲羽は、まだ会話を交わしているようだが。それでも注意は怠ってないようで、話をしながらでもそれぞれの武器を整えていた。
あの和泉ですら黙っているくらいだ。
「・・・里雨さんと咲羽君、やっぱり絵になる」
前言撤回。やっぱりこいつの脳内は花畑らしい。藤南を見ろ、苦笑いだぞ。藤南はいかにも真面目っ子らしく、手にしたロッドの調子を見ている。
「・・・・・・今日、魔物少ないね」
ぽつりと呟いた藤南に、咲羽が答える。
「まぁ、ここ姫泉からさほど遠くないし・・・姫泉事変の影響じゃないかな」
・・・姫泉事変。聞きたくもない名だった。

8歳頃、初めて里雨と出会った。
その頃から里雨はわりと男勝りで勇ましく、俺が誰かと喧嘩なんてした時には服の襟を掴んでぶん投げられたくらいだ。
そんな里雨が、あの時初めて泣いた。
怒りで紅潮した頬や、喜龍に向けた悲しげな目、儚い笑顔。何れも、この6年では見たことがなかった。
・・・・・・もし喜龍の立場にいたのが俺だったなら、彼女はどう思うのだろう。同じように、怒り悲しんでくれるのだろうか。
俺の前まで歩いてきた里雨を見て、俺らしくもないことばかり考える。
「爽輝」
そんな、凛としたまっすぐな声で呼ばないでくれ。
「無茶だけはするなよ。お前は昔から、感情任せに暴走するからな」
そんな、透き通った目で見ないでくれ。
「まぁ何かあったら言えよ。・・・私だって、お前に傷を付けたくはないんだ」
そんな、綺麗な笑顔を向けないでくれ・・・!!
里雨に撫でられた頭に触れ、熱を持った頬を隠すように下を向く。
素直になれず、そっけなく返してばかりの自分に腹が立った。