石見の表情が曇るのも無理はない。・・・彼の幼馴染みこそが今おれ達が探している人、弥岸因幡なのだから。
顔にこそ出ていないけど、彼も彼なりに心配しているのだろう。いつもはクールで里雨や咲羽へのいたずらが目立っていたのに、あの事件以来いたずらも減り少し荒れた気がする。
・・・あの事件。

おれ達が生まれ育った王国をドン底に陥れ、人々から平穏を奪った事件。通称・姫泉事変。
あれ以来、皆が変わってしまった。
王は常に小難しい顔をするようになり、心配性になった。王の側近である直斗さんと緑川さんも、思い詰めたような顔をするようになった。
・・・何よりおれ達に響いたことがある。
ちょうどこの姫泉事変の時に失踪した、弥岸。これは石見をはじめとし、咲羽や里雨にも疑問や衝撃を与えた。その疑問を解くため、この“弥岸因幡捜索活動”が決行されたのだ。
そして、姫泉事変によって大怪我を負った同級生・・・慶乃喜龍。彼は現在意識不明の重体で、城にて治療を受けている。・・・それでも命の危険が去るわけではなく、いつだって気が抜けない状態らしいけど。その事実が、彼の友人である里雨を深く傷つけていた。
・・・多分、里雨が“姫泉事変元凶の追及”を申し出たのもそれが原因。彼女は友達思いだから、喜龍をあんな目に遭わせた奴を許せないんだと思う。


「里雨、そろそろ」
不意に、前方でいた咲羽が里雨にそう言うのが聞こえた。里雨は少し考える仕草をした後、決意したかのように目を閉じ深呼吸をしてからおれ達の方へ振り返った。
「・・・そうだな。皆、気を引き締めろ。この道を抜け森へ入れば、そこからは“魔物”の領域だ。」
相変わらず男っぽく勇ましい里雨に苦笑いして、ロッドを持つ手に力を入れる。
「・・・・・・ここから、なんだ。」
そう呟くと同時に咲羽の雰囲気がガラッと変わったのを、おれはしっかりと感じ取っていた。