【柊目線】


*
「うわぁ、もう城があんな遠くに見える」
後ろを向いた咲羽が、唯一見えている左目を輝かせて感嘆の声をあげる。その透き通った水色の目が、ますます綺麗に見えた。
他のメンバーも会話を楽しんでおり、黙っているのなんて石見とおれくらいだ。それでも、会話を聞いているのは楽しいから全然いい。
・・・皆からもやはり緊張や恐怖、不安などは感じられない。ただ、楽しい。そういった雰囲気だった。例えていうならば・・・そう、旅行のよう。

おれは他のメンバーを見渡した。
弓の扱いが上手く物理的命中率が高い、和泉翔愛。
黒魔法使いで大鎌をも軽々と振り回す力の持ち主、石見爽輝。
槍術に長けるムードメーカー的存在、優木咲羽。
優れた剣技を持つ紅一点、霧北里雨。
それぞれ違う特技を持った、4人の同級生達。
特技だけではなく性格もデコボコなおれ達がこうして旅に出ることになったのは、きっとそれぞれ違う理由があってのこと。・・・おれは知らないけどね。

「・・・因幡、何処にいると思う」
少し歩いた頃、ずっと黙っていた石見がふと呟いた。切れ長な紫の目がおれ達を捉える。
「・・・これはあくまで私の予想だが」
静かに口を開いた里雨に、全員が注目する。いつもは人の話なんて聞きもしない石見も、この時ばかりは彼女をじっと見つめていた。
「“妖霧ノ国”。・・・知ってるだろう?そこに、因幡を探る手掛かりがあると思うんだ」
「妖霧って・・・。またずいぶん遠くじゃないですか」
珍しく和泉が真面目に返すが、里雨はそれに答えることもなく難しい顔をして咲羽のところへ行ってしまった。咲羽も、考え事をしているように見えた。・・・こういうところを見てると、流石リーダー達だなぁと思う。
「・・・あの2人、絵になりますね」
さっきの真面目さは何処へやら、ニコニコと笑いながら和泉が言った。
「・・・まぁ美男美女だしな」
同調するようにそう返す石見は、和泉とは対に不機嫌そうだった。・・・まったく、石見も顔はいいのに。
「幼馴染みだから、っていうのもあるんでしょうね」
石見の機嫌が悪いのに気付かずか、和泉がいらない一言を付け足す。
幼馴染みと聞いた途端表情を曇らせた石見を見て、おれは一人和泉に呆れていた。