私たちを見守っていた部員たちが思い出した様に口を開いた。


「高岡……大会出れるのか?」

「おぅ!もちろ……」


高岡くんの元気な声を遮る様に誰かの声が響き渡った。


「高岡くん。
今回はメンバーから外れてください」

「なっ……先生!!」


先生は少し厳しい顔で高岡くんを見ていた。


「キミには未来がある。
今は治療に専念するべきです」

「……俺は出ますよ。
必死にリハビリして直ぐに泳げるように」

「駄目です」


ズバッと言い切る先生に高岡くんは悔しそうに顔を歪めた。
先生は自分が怪我をして泳げない辛さを知っている。
だから高岡くんには無理をして欲しくないんだろう。

でも高岡くんの気持ちも分かる。
大会に出れない悔しさは痛いくらいに分かるから。

2人の気持ちが分かるからこそ私は何も言えなかった。
黙り込んでいれば震える声がプールへと落とされた。


「何でだよ!!
俺は大会で優勝しなきゃ……。
高瀬との約束を守りてぇ……」


高岡くんは拳を握り締めながら肩を震わせている。
私との約束を守る為に高岡くんは必死に。
頭に浮かぶのは2人で交わした約束だった。

『守らなくていいから……。
今度の大会で優勝して!』

『ったく……。
分かったよ、必ず優勝してやる。
それがお前の望みなら』

そんな、律儀過ぎでしょ。
高岡くんの馬鹿っ……。
自分が大変な時に私との約束なんかを。


「俺は絶対に試合に……!」

「駄目」

「高瀬……?」


私はヤンワリと高岡くんの言葉を遮る。

高岡くん。
私は本当にあなたに感謝をしているの。

高岡くんはいつだって私を助けてくれた。

だからせめて。
あなたの力になりたい。


「私が高岡くんの代わりに平泳ぎで大会に出る」


私の声は揺らぐことなくプールへと放たれた。