「高瀬さん!」


どのくらい時間が経ったかは分からない。
でも私には凄く長く感じた。


「せんせい……」


私を抱きしめてくれるのは先生だった。
哀しみでおかしくなりそうな私を救う様に強く抱きしめてくれる。


「大丈夫……大丈夫です」


先生が背中を優しく撫で上げてくれる。
先生の『大丈夫』は私にとっては魔法の言葉だ。
それだけで少し落ち着いてきた。


「もう……大丈夫です」

「そうですか。
なら……良かったです」


先生は私を離しポンッと頭を撫でてくれた。


「全部……聞きました。
高岡くんのファンの方たちに階段から突き飛ばされたんですね?」

「……」


どう答えればいいか分からず私は下を俯いたまま唇を噛みしめる。


「……階段から突き飛ばした人たちはもう認めています。
だから正直に話して下さい」


先生は諭す様に言う。


「……はい。
それを……高岡くんが……」


ギュッと拳を握りしめる。
私が女子たちを怒らせるような事をしなかったら突き飛ばされる事も。
高岡くんに怪我をさせる事も無かったのに。
全部、私のせいだ。


「高瀬さんのせいじゃありませんよ」


私の心を見透かす様に先生は優しく言ってくれる。
でも。


「私を助けたせいで高岡くんは怪我を……」


それは揺るぎのない事実だった。


「高瀬さん。
高岡くんはキミを泣かせたくて助けた訳じゃありませんよ」

「っ……」


高岡くんは自分の怪我よりも私の身を心配するお人好しだ。
私が泣けば彼の想いを踏みにじる事になる。
だけど。


「すみません」

「どうして先生が謝るんですか?」


顔を上げれば苦しそうな先生の顔が目に映る。


「僕はキミが高岡くんのファンの子たちに目を付けられているのを知っていました。
なのに何も出来なかった。
キミを守るどころか、高岡くんにも怪我をさせてしまった」


先生は今凄く傷ついてるんだ。
それも私のせい。


「高瀬さん、すみません」

「先生のせいじゃない……」

「いえ……僕の責任です」


先生は譲る事なく自分のせいだと言った。
私を傷つけない為の嘘。
優しい嘘に甘えちゃ駄目だって分かっているけど。
弱虫な私は先生の優しさに甘えてしまう。
先生の胸の中で再び涙を流し続けた、涙が出なくなるまで。