「高瀬さん……部室に行きましょう。
手当てをしなくちゃ……」


先生が私の体を支えながら立ち上がらせてくれる。
一瞬だけ体に痛みが走るがすぐに治る程度のものだろう。


「先生……高岡くんが……」

「……彼なら大丈夫です。
頭も打ってないようですし命には別状はありません」


先生は私を慰める様に優しく言ってくれる。
でも、それを素直に受け入れられなかった。

だって見てしまった。

高岡くんの腫れあがった足を。
痛みを堪える様に涙を浮かべた瞳を。


「私のせいで高岡くんが!!」

「高瀬さんのせいじゃない!
だから……泣かないでください」


先生、胸が苦しいよ。
もし高岡くんに何かあったら私……。


「大丈夫ですから」


泣きじゃくる私をただ黙って抱きしめてくれていた。

部室につくと先生が手当てをしてくれた。
心配そうに何度も何度も『大丈夫ですか?』と泣きそうな声で声を掛けてくれる。

かすり傷程度だったけどジンジンと痛む節々。
でもそんな事より胸の痛みの方が強かった。


「高瀬さん」

「先生……私……」

「蒼井先生!
ちょっといいですか」

「あっはい。
高瀬さん、少し待っていてください」

「はい」


先生は他の先生に連れられて部室を出て行った。
1人取り残された私。
頭にはさっきの光景がよぎっていた。
階段から突き落とされた時に聞こえた。

『高瀬!』

あの声も、私を包み込む様な腕も。
高岡くんのものだったんだ。
高岡くんが私を守ってくれた。

彼が前に言っていた通りに。
でもそのせいで彼が怪我を。
そう思った瞬間、ガクガクと体が震えだす。

自分を犠牲にして助けられたって、嬉しくもなんともない。
そのせいで高岡くんが怪我をした。
こんな事になるなら、私が怪我をした方がよっぽど良かったのに。