“階段から突き落とされた”

その事実を受け入れたくない。
今怪我なんかしたら大会に出られなくなっちゃう。
皆の迷惑になってしまう。

不思議と突き落された恐怖は無かった。
でも。

大会に出られない恐怖と、皆の想いに応えられない恐怖が、大きく膨れ上がる。

その時。


「高瀬!!」


大きな声が私を優しく包み込んだ。
そして、抱きしめられる感触が体に刻み込まれる。

ドスンと人が落ちた音が響き渡る。
多少の痛みは体に残るものの大したものではなかった。


「痛ッ……」


でも悲鳴に近い声がすぐ近くで聞こえてくる。
私のものではない、だとしたら……。
ふと、すぐ隣を見れば思わず声が漏れてしまう。


「え……」


目の前が真っ暗になるのが分かった。
だって足を押さえながら地面に倒れ込んでいる高岡くんが目に映ったから。


「高岡くん!?」

「高瀬……大丈夫か……?」


痛みを堪える様に絞り出された声に私は泣きそうになる。

何で。
何で高岡くんが。


「大丈夫か!?」


騒ぎを聞きつけた先生たちが私たちの元に駆け寄ってくる。
その中には蒼井先生もいた。


「高瀬さん一体何が……」


先生の声が耳から抜けていく。
私のせいで、私のせいで高岡くんが……。


「とりあえず保健室に連れてくぞ!」


騒ぎを聞きつけてやって来た保健室の先生が高岡くんを担ぐ。


「彼女も保健室に……」


保健室の先生が私に向かって話しかけている。
でも私はその場から動けなかった。


「彼女の手当ては僕がします」

「分かりました。
よろしくお願いします蒼井先生」


バタバタと騒がしく遠ざかる足音。
辺りは一気に静まりかえった。