『いいよ』
そう言って、そっと顔を寄せた。唇の表面が優しく触れるくらいのキスを交わした。
離れると、高塚は『ありがとう』と笑おうとして失敗したみたいに笑った。
『……冷えてきたね。ごめん。こんなところで』
『ううん』と首を横に振り、指先に息をかけた高塚の横顔。
『帰ろっか?』
『うん』
俺を見て、今度はちゃんと笑った。
立ち上がり、受験勉強がどうだとか、そんな話をしながら帰ったんだと思う。
正直そんなに覚えてない。重要なことじゃなかったから。
それよりも意識は別のところにあって。
今さら触れたくなっていた。高塚の冷えた指先に。
それは唇に触れてしまったせいなのかもしれない。
そっけなくされて、近づけないでいた距離をどうしてあんなタイミングで飛び越えてしまったんだろ。
自分でそうしたのに、別れ話をしたことが正しいことだったのかそんなこと迷っていたんだ。
『キスしてほしい』
それって、高塚は俺のことがちゃんと好きだったってことじゃないのか。
なら別れる必要なんてなかったのかもしれない。
そんなこと別れた側から考えていた。