ONE.

    〜時雨Side〜




「…大丈夫?」




俺は青い顔で震えている女の子に声をかけた。




ここは電車の中、乗物酔いだろうかと思い、声をかけたのだが…




青い顔のままふるふると首を小さくふる彼女は、涙目で。




ポロポロと涙を落としてつぶやいた。




「…たすけて。」




あまりにも声が小さく、聞こえなかったが口の動きですぐにわかった。




「…たすけて、痴漢が…」




下校時間と会社員の帰宅時間が重なる電車の中では痴漢は少なくない。




すぐに彼女を触っている手を見つけ、捻りあげる。




「何してるんですか?痴漢ですよね?
…次の駅でおりてくださいね?」




俺は痴漢野郎に微笑んだ。




「ひいぃぃっ!すみませんでしたぁっ!」




グイッ。痴漢野郎が手を離そうとする。




「…何してるんですか?」




「あ、あの、ちゃんと次の駅で降りるので、手を離していただけないでしょうか?」




俺は即答した。




「ダメですよ。あなたが電車を降りて、駅員さんの手に渡るまで
    ーーーーー…逃がしませんから。」




俺はまた微笑む。




痴漢野郎の顔がもっと真っ青になった。




ちょうど次の駅についた。




ドアが開いた瞬間、痴漢野郎が暴れだして逃げようとした。




「うわぁぁっ!」




「っ、おい!!」




電車を降りて、痴漢野郎をひっぱり、少し手に力を入れると、思いっきり床めがけて押し付け痴漢野郎に馬乗りになる。




「誰か駅員さんを呼んでくださいっ!
痴漢がいますっ!はやく!」




そして、痴漢野郎を睨みつけながら微笑むことなく囁いた。




「…逃げようとしてんじゃねぇよ。」




その瞬間から痴漢野郎の力が抜け、おとなしくなった。




『大丈夫ですか!』




駅員さんが走ってくる。




「…この人です。」




痴漢野郎の上から退いて、駅員さんに痴漢野郎を渡した。




(さっきの、彼女は…?)




俺はきょろきょろと辺りを見回した。




「あ、あの、私はココですっ!
あの、、えっと、助けていただき、ありがとうございました!」




俺のすぐ後ろにいたようだ。




小柄な彼女は改めて見てみると、俺と同じ制服を着ていた。




涙目で、少し顔を赤らめて、ニコリと笑った彼女は…凄く可愛かった。




俺の顔が徐々に赤くなっていく。




俺はうつむき加減に、どういたしまして。とつぶやいた。




そして、ハッと思い出した。




「君さ、駅員さんに言える?…大丈夫?俺が言おうか?言いにくいなら、だけど。」




「いえ、あの、大丈夫ですっ!言えます。でも、不安なので一緒に来てもらえませんか?」




「了解。…怖かっただろ?これから大丈夫?電車乗るの怖くない?」




「…正直怖いです。でも、大丈夫ですっ!」




「そっか。無理とかすんなよ?怖いと思ったら、駅員さんに話しなよ。」




「はいっ!ホントに、ありがとうございます!」




微笑まれて、微笑み返した。




少しの間見つめ合う。




ドキッとしたのをごまかすように、また俯いた。




「…話しに行くか。」




彼女の手を優しく掴んで、手をつないだ。




はい。と小さく返事をした彼女は、ちょこちょことついてきた。




(…可愛いなぁ、小動物みたいだw)




癒やされる、ってこんな感じなのか。







……痴漢野郎が正座してうなだれていた。




横に立っていた駅員さんに、この子が被害者です。と言った。




駅員さんは、書類をたくさん持っていた。
そして、ため息をつきながら言った。




「あ~、いいよいいよ、こいつ常習犯だからねー。


次は無いって言ったのに!


しょうがないねぇ〜、出禁だ出禁!


うん、お譲ちゃん怖かっただろー?


でも、まだまだ痴漢なんていっぱいいるからねぇ。


気をつけなよ?


それから、きみ!よくやった!


高校生にしてはよくやったよー!


おじさん助かった!!


うん、この年で痴漢野郎追いかけるなんてキツくてキツくて、ははは!


感謝状でも送るよー。


君たちの名前とか電話番号とか住所とか教えてくれる?


書類書かないといけないからさぁ〜。」




年配の駅員さんは、マシンガントークを繰り広げバサバサと書類をゆらした。




「はい。えっと、私は成瀬愛花(なるせあいか)と言います。あ、これ学生証です。」




「あ、学生証助かるよー!成瀬さんねぇ。君は?」




「あ、俺は、秋野時雨(あきのしぐれ)です。俺も、これ、学生証です。」




「ふーん、秋野くんねー。ん?君達同じ学校だねぇ。もしかして彼氏彼女??ははは!そこまでは聞かないけどねぇ~」




(今聞いたじゃん…)苦笑




「いえ、今日初めて会ったんで。」




「えっ……?」




「へぇー、そうなの?ははは!


まあ、今日は災難だったねぇ。後日また連絡するから!


今日はもう遅いし、帰りなさい。気をつけてねぇ。」




『はい』




…もう9時近い。




「えっと、成瀬さん。もう夜遅いし、家まで送るよ。」




「そんなっ、悪いです!助けていただいて、お時間まで取らせてしまったのに…」








「いいんだよ、気にしないで。


こんな時間に一人で帰らせるわけにもいかないし。


それとも、…俺に送られるの嫌?」




「…っ!そんなことないです!嬉しいです!でも、」




「…だめ?いや?」




「えっあの、、嫌じゃ…だめじゃないです…


お言葉に甘えます、ありがとうございます!


すみません気を使わせてしまって…。」




「気にしなくていいよ!困ったときはお互い様って言うだろ?いつか助けてもらうかもしれないしなw」




「は、はい!ありがとうございます!」




二人で話しながら電車に乗る。




意外に人が多かったけれど、満員電車程ではない。




とりあえず、出入口近くのつり革を掴んだ、成瀬さんにはドア側にもたれて俺と向かい合わせになる。




「イエイエ〜。ところでさ、成瀬さん何年?俺一年なんだけど、普通にため語だし。敬語やめようよ。」




「あっえっと、わかった。私も一年だよ。


…秋野君、私のこと覚えてないの?」




「ん?会ったことある?…ごめん、覚えてない。

あ、でも同じ学校で同じ学年だったら顔くらい知ってるよなー。…ごめん。」




「いいの、気にしないで。ちなみに同じクラスだけどね。気にしないでね。アハハ…」




「えっ!マジで?わー、ごめん!俺さ、名前とか覚えるのとか超苦手で。ほんとゴメンな!」




「いいの、そんなに謝らないで!なんとなく秋野君はそんな感じなんだなあって前から思ってたし、気にしてないから!」




(前から…?)




「ありがとう?かな?」




「いいえーっ、あははっ!」




ニコリと笑った彼女は、鈴のような綺麗な声で笑った。




つられて俺も笑う。




「そういえば、家どこらへん?」




「んーっと、この駅から2駅の○○駅でおりて、そこから二十分ほど歩くの。道が家までだいたい真っ直ぐだからわかりやすいよ〜。」




「マジ?俺も○○駅なんだけど。っていうと、案外成瀬さんと家が近いかもな!」




「えっ?ホントに?すごい偶然だねぇ!」




成瀬さんがにっこりと微笑んだのを見てまたドキッとしてしまう。




(さっきからなんなんだろう。俺、どうかしたのかな?成瀬さんの笑顔を見るたびにドキドキするんだけど…なんなんだ??)




少し考えこんでいると、成瀬さんが不思議そうな顔で俺の顔を覗きこんできた。




「…っ!おっ、なに??」(顔が近いっ///)




少し上目使いで、首を傾げながら俺の顔を覗きこむ仕草はとても可愛い。




まるで小動物…(似てるとしたら犬だなw)




「なにって、急に秋野くんがボーッとしてたから。どうかしたの?」




「な、何でもないよ。心配ありがとう!あはは…」




(まさか犬に似てるなんて言えない…苦笑)




見つめられるのが恥ずかしくなり、照れ隠しに軽く微笑むと、成瀬さんはうつむいて足早に歩きだした。




「え?どこいくの?揺れるから危ないよ!」




言ったそばからふらつく成瀬さんを腕を掴んで引き止める。




「きゃっ!…ふぅ、危なかったぁ。


秋野くんありがとう。あの、でもその…///」




顔を真っ赤に染めて話す彼女を見て可愛いなって思った。




「…ゆっくりでいいから。どこかに行こうとしてたの?


揺れて危ないからちゃんと止まってから動きなよ。」







俺は成瀬さんの腕を少し引っ張って元いた場所まで戻した。




成瀬さんはまた壁にもたれてバランスをとる。




それと同時にそっと手を離した。




「あ、そっか。うん、ありがと。…あの、何でもないの、あはは…。」




「そっか、成瀬さん可愛いんだからまた痴漢にあわないように気をつけないと。」




「、えっ??」




(あっ、俺今さらっと可愛いとか言った…やばい、照れる…///)




「一人で満員電車に乗るのは危ないよ…もしかして今日の初めてじゃ、ない?」




(…今まではどうしてたんだろう?)




「き、今日が初めてだよ!すごく怖かったし、気持ち悪かった…。」




「っ!な、成瀬さん!思い出させてごめん!大丈夫?」




顔を真っ青にしてカタカタと震えている彼女を見ると、聞いてはいけなかったと自責の念にかられる。




「だ、大丈夫!私は平気だから!し、心配かけてごめんなさい。」




「そんな、謝らなくていいよ。今のは俺が悪かったし…ごめん。」




「秋野くんも、そんなに謝らなくていいのに!


ずっと気を使わせちゃってるし…ほんとに申し訳ないくらい…。」




「いや、だって俺が悪……って、この話すごくループしてるよな!


謝ってばっかで、話重くなっちまったな。


ここで切るか!俺はもう気にしない!


だから、成瀬さんも…気にしたらだめ。」




「う、うん!気にしない!ありがと!」




「いいえ〜」




【○○〜、○○〜、○○駅でお降りの方はお忘れ物の無いようご注意ください。】




「あっ、ついたな。ドア気をつけて。」




「う、うん!ありがとう。」




成瀬さんをリードするようにホームに降りた。




改札をぬけて、西口に向かおうとして止まる。




「あっ、成瀬さんって、方向どっち?」




(危なかった。ついいつもの癖で普通に帰ろうとしてた。やばいやばい…汗)




「えっと、西口から出て右の道にまっすぐ進むの。」




「まじか!俺の帰り道と一緒だ!もしかして…大宮神社知ってる?そこから家近い?」




「うん。近いよ!うーん、家から2分もかからないかなぁ。」




ふたりでならんでずっとまっすぐの道を歩く。




人気が無く、車もあまり通らない上に、街灯も少ない。




話し続けながら、こんな道は女の子一人で通るのは危ないよな、と思った。




「おぉー、俺もそれくらい!すっごい家近いじゃんw」




「そうなの?すごい偶然だね!びっくりしちゃった!」




「俺も!あ、じゃあさ、これからは登下校一緒に行かない?


成瀬さんがまた痴漢に会うの嫌だし、俺が成瀬さんを守っていれば、痴漢どころか不審者ですら近づけないよ?」




俺は少しドヤ顔で言ってみた。




「えっ?いいの?」




「いいよ。一人で学校行くのも寂しいしな!」




「あ、ありがとう!ホントは少し怖かったの、えへへw」




(やっぱり女の子ひとりじゃこの道は怖いよな…。)







「じゃあ、決まりな!…あ、神社見えてきた。家、もうすぐ?」




「うん、神社の前の道を曲がって、そこから3つ目の角の青い屋根の家だよ。」




「なるほど。…あぁ!なるほど。俺の家、その家の斜め前だ。」




「えっ?えぇーーーっ!?」




「入学式終わってすぐ引っ越してきたんだよ、こっちに。

もともとは✕×街の方に住んでたけど…いろいろあってなw」




「そうなの?じゃあ、一人暮らし…?」




「あぁ、まあ、そうなるね。」




「す、すごいっ!!もう自立してるなんて!」




「自立はしてねぇけどな。親の金だし。」




「でも…っすごいよ!家事とか全部一人でしてるんでしょう?ご飯とかはどうしてるの?」




「んー、そうだけど…飯は作ったり買ったりかな。買うほうが多いけど。」




「作れるの??」




キラキラした眼差しで見つめてくる…




「あっ、いや、野菜炒めとか、簡単なやつだけなw俺あんまり器用じゃないから。」




「そうなの?…野菜炒めかぁ、不足した栄養を補うならそれが一番楽だよね、炒めるだけだし。」




「お、おう。」




「秋野くんの料理、食べてみたいなぁ~っ」




更にキラキラした目で見つめてくる…




「じゃあ今度遊びに来る?なんか作るけど。」




「いいのっ!?やったぁー!ありがとうっ!楽しみにしてるね!


うーん、いつがいいかなぁ?今週末とか、秋野くんあいてる?」




(今更思ったけど、一人暮らしの男の家に女子高生を呼んでいいものなのか?


あっさりOKしてくれているが、俺は男としてみていないとか?


危機感全く持ってないとか?


わかんねぇ…。)




「え、ほんとにくるの?」




「あっ、冗談だったの?だめ?」




こんなに可愛い子に上目使いで首を傾げられ「だめ?」なんてお願いされると、拒否できる男子なんてこの世にいないと思う。




現にいま俺はそういう状況に陥っている訳であり、君のこと気になってて何かハプニングが起こるかもしれないから来ないでなんて、言えるわけもなく…。




「だめじゃないよ!今週末めっちゃ暇だから!休日じゃなくても大体暇だからいつでもいいよ!」




なんて言って、必死だなと自分でもつくづく思う。




これを気に彼女を作るチャンス!なんてねw




もっと彼女のことを知りたいと思ったし仲良くなりたいと思ったのも事実だから。




「そっかぁ。んー、じゃあ土曜日でもいいかな?」




「わかった。土曜日な!なんか食べたいものとかある?嫌いな食べ物、ある?」




今聞いておけばもし作れないものでも練習できる、好みを把握しないとな!




「んー、嫌いなものか、あんまりないかも。うーん…じゃあ、えっと、お、オムライスとかどうですか!」




オムライス?作ったことはないが練習したら作れそうな気がする。




「OK!楽しみにしてて?」




「うん!すごく楽しみっ!


あっ、何時に行けばいいのかな?」




「あー、昼くらいでいいんじゃね?12時、とかかな。そうだ、携帯持ってる?」




「12時ね!わかった。持ってるよ?」




「連絡とかとりやすいほうがいいかなって、思って、LINE、交換しない?」




「いいよ!ふるふる?」




「どっちでも。」




ふるふるで連絡先入手!嬉しい。




自然と顔がにやける。




彼女の家の前についた。




「俺の家、あれ。」




斜め前の家を指さす。




「あの家!?この前できたばかりのとこだよね?おっきい!あのお家に1人かぁ。」




「使ってるのはリビングと風呂とトイレと一部屋だけだけどな。」




「そっかぁ、そうなるよねぇ。」




なんだか会話が暗くなっている気がする。




「あ、明日!朝何時に学校行く?迎えに来るけど。」




「あ、ありがとう、えっとね、7時半とかどうかな?ギリギリかな?」




「7時半か。大丈夫だろ!


じゃあ、明日な!」




「うん!明日、ね!」




彼女が家に入るのを見届けて、家まで歩く。




今日は楽しかったなぁなんて考えながら自然と笑ってしまった。




「オムライスかぁ。練習しなきゃ、な…。」




ひとりごちて、玄関の鍵をあけ、中にはいる。




鍵を閉めると、リビングに荷物を置き、隣の部屋のウォークインクローゼットで家着に着替える。




冷蔵庫の中を見ると空っぽだ。




見事に飲み物すら入っていない。




「…コンビニ、行くか。」




財布と携帯をスウェットのポケットに入れ込むと、鍵をもって外へ出た。




外へ出たまでは良かったが、引っ越してきたばかりだ。道がわかるわけがなく…




「まあ、覚えるしかないよなぁ。」




とつぶやき、適当な方向に歩き出した。




迷ったら携帯で検索してナビで帰ればいいかなんて考えながら、住宅街を歩く。




10分ほど歩くと、商店街が見えてきた。








そういえば今何時だ?




携帯を見ると、21時過ぎ…




「商店街ねぇ、開いてる店あったら食べてくか。」




そう考えてはっと気づく。




俺家着じゃん。




スウェットとTシャツじゃん。




超寝間着じゃん。




やっぱコンビニ探そ。




普通の格好してくればよかったと後悔。




商店街の中を歩く。閉まっている店が多く、人気もないため不気味に感じる。




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