ふよふよとハートを飛ばしながら騒ぐ桃花に呆れつつ、未だに1歩も動かない碧人くんをちらりと見た。

借り物って本当に好きな人なのかな……?

もしもそうだとしたら、碧人くんは誰を連れて行くんだろう。

好きな人、いるのかな。


「碧人くん……」


自然と碧人くんの名前が口から零れ落ちた。

風に吹き飛ばされてしまいそうなほど、弱くて軽い小さな呟き。

それは誰にも聞こえないはずの声だったのに……。


「………っ?」


次の瞬間、突然振り向いた碧人くんと目が合ったような気がした。


……聞こえた?

いやいや、そんなわけない。

碧人くんとは何10メートルも距離が離れているのに……。


『サプライズ借り物を引いた日野くんがついに走り出しました!向かう先にはいったい何があるのでしょうか!』


ほら、タイミングがたまたま被っただけ。

わたしがいる方向に向かって走っているのも、たまたま……だよね。


「桃花、碧人くんこっち来てるよ」

「えっ!日野くんがついにわたしを迎えに!?」

「いや、それはわかんないけど……」


サプライズ借り物が結局なんなのかすら、わかっていないもの。