ーーパーンッ…!

ついに鳴り響いたピストルの音を合図に、スタートライン立つ選手たちが一斉に走り出した。


『さぁ、選手たちが一斉に走り出しました!』

「頑張れー!」

「いけー!」


騒がしくなる周囲の生徒たちと、実況アナウンスの声が聞こえる。

わたしの隣で「日野くーん!」と一生懸命エールを飛ばす桃花には申し訳ないけど、うまく応援する気になれなかった。

まだ胸のモヤモヤが消えないな。


『選手たちが次々に借り物ゾーン地点に到着しています!』


「芽衣子、日野くんも引いたよ!なんの借り物かちゃんと聞いとかなくちゃね!」

「そっ、そうだね………」


桃花に促され、碧人くんの声が聞こえるように耳を澄ましても、あの透き通るような綺麗な声は聞こえてこない。


「ハンカチ持ってる人ー!」

「帽子持ってる人いますかー!?」


他の選手は動いて借り物を探しているのに、碧人くんは立ち止まったままだ。

どうしたんだろう……。

動けないほど難しい借り物なのかな?