忘れていた頃の記憶は2度と思い出すことはないと、先生は言っていた。


だからこうして何事もなかったように接しているのに。

碧人がこれじゃあ意味ないよ……。


確かに先生の言う通り、記憶を思い出すことはないのかもしれない。

今のすれ違いはちょっとした不祥事で、時間が経てばきっと元の碧人に戻るはず。


そうすれば芽衣子ちゃんに嫉妬することもなくなって、わたしは碧人と幸せになれる。


………本当にそれでいいの？

いいよ。わたしだって碧人が好きだもん。


後悔しない？

しない。全部忘れるから。


碧人の好きな人は誰？

そんなの……わたし、だよね？


自分の心の中でいくつもの葛藤が生まれていた。


濁りきった感情が、碧人への純粋な想いを汚していく。

知らないふりをしていれば全て上手くいくってわかっているのに。


芽衣子ちゃんのことを考えるだけで胸が苦しかった。

大好きな人に忘れられる辛さを、わたしは誰よりも知っているから。