結局30分と言っていたのに、最後まで見てしまい、気づけば九時を回っていた。


花火が終わっても、なんだか名残惜しくて、花火の消えた空をじっと見る。


「先生、今日はありがとう」

長い沈黙のあとで、伊東が言った。


「いや、僕も楽しんでたしいいよ」


またしばらく沈黙があって、ようやく僕は口を開いた。


「そろそろ帰ろうか」

僕は伊東に言ったつもりだったのだけど、伊東は空から目を離さない。


「帰りたくないな」

聞こえるか、聞こえないかの小さい声で伊東が呟いた。