僕に否定するひまもあたえず去って行ったところを見ると、よっぽど自分の勘に自信があったらしい。

いや、あたっているから、あいつの勘は間違ってはいないのだけど。


「先生、隣いい?」

「うわっ」


考えすぎて周りを見ていなかった僕は、いきなり伊東に声をかけられて思わず変な声がでた。


「なに考えてたん?そんな眉間にしわよせて」


伊東が自分の眉間を指さす。どうやら相当難しい顔をしていたらしい。


「いや、なんか、やっぱり三年生がいなくなるとなると、さみしいなと思ってさ」

とっさにいい言い訳が思いつかなくて、しどろもどろになる。


「もうここに毎日こんでいいかと思うとさみしいなぁ。」

「そうやな」

「これから毎日化学とか死にたい」


伊東が露骨に嫌な声をだす。

伊東は夏休み、僕の集中講義をとっていた。お盆が終わったら毎日化学の授業がある。