シャワーを浴びて、薄く伸びた髭を剃る。

喉にくっきりと赤く残っている、タカヤの指の痕。


あのやろう、馬鹿力で絞めやがって。


地味なスーツを選んで着替え、整髪剤で髪を整える。

こんな格好ができるのも、今日が最後だ。
窓の景色も、シャワーも、手に入らない場所に行く。


コカインを詰めた金魚を、ひとつかみにして、ポケットにねじ込んだ。


ひとつだけ、指の間からこぼれ落ちた金魚。

沼田は、落とした金魚をつまみ上げた。

窓際で、光に透かす。
人を不幸にする液体は、それでも透明に澄んで、煌いた。


こいつのおかげで、タカヤは身体をぼろぼろにした。

沼田は、タカヤに殺されかけた。

おまけに、警察に自首するはめになっている。


それでも。


捨てることで、タカヤも、そして沼田も、一歩踏み出すことができる。

光の射す方へ。


この小さなクスリに。
あのおせっかいな医者に。
タカヤに。

沼田は、眩しさに少し目を眇めて、呟いた。


「……ありがとう」




2008.08.27