携帯電話の横に置いた、コカインをつめた金魚。

タカヤの手の届かないところに、このクスリと、沼田自身を隠さなければいけない。

そのために、いちばん簡単な方法。

あの青年に言われる前から、考えていた。


(そのまま警察に連れていったほうが、いいんじゃねぇの?)


確かにそれが、いちばん簡単で確実な方法だ。

沼田が、警察に足を運んで、手持ちのコカインの全てと、入手ルートをばらす。

そうすれば警察が、沼田自身を拘束し、コカインを没収する。

タカヤが回復するまで、あるいはその後も、クスリも沼田も近づくことはない。


(ま、刑務所から出てきたらすぐに、あの組のやつらに殺されるかも知れねぇけどな)



これから沼田がやろうとしていることは、このクスリを卸しているヤクザ達を裏切る行為でもある。

メンツを潰され、資金源も潰されて、おとなしく見逃してくれるはずがない。


それでも。

やつらの手がタカヤに伸びることはないだろう。


ただの使い捨てのチンピラに、ましてや閉鎖病棟に入院しているコカイン漬けのバカに何かを仕掛けたところで、何の利益もない。

そのうえタカヤには、後ろ暗いところのない、善良な医者という立場の萩がついている。