沼田が、ここにいる限り。
ここに、この金魚がある限り。

タカヤは何度でも、病院を脱走してくるだろう。

ここに、夢を見る薬があるとわかっていて、手を伸ばすことを堪えられるほど、タカヤは我慢強くも、幸福でもない。


ここは、タカヤにとっては、楽園だったのだろうか。

唯一、夢を見ることができる場所だったのだろうか。


そうだとしたら、ずいぶんとひどい夢を見せちまったな。


「沼田さん。あなたも病院で一度検査したほうがいい。気を失うまで首を絞められていたんだ、酸欠で、どこか問題が出ているかもしれない。俺たちと一緒に、病院へ来てください」

「そのまま警察に連れていったほうがいいんじゃねぇの?」

「純。高谷君にとって、この人がどれだけ支えになっているか、わかっているだろう」

「だからむかつくんじゃねーか!」

苛立って、青年が声を上げる。
気まずそうに、目を伏せた。

彼らなら。

こんなにきれいに生きている彼らなら、タカヤを、連れていってくれるかもしれない。

もっと、タカヤが幸せになれる場所へ。

「支えになんか、なれませんよ。俺はこんなものを取り扱っている、泥の底で生きている人間だ。きれいなもんを汚すしか能がない」