ようやくつかんだ携帯の、着信記録のボタンを押す。
ワンコールで出た萩の声を聞きながら、沼田は気を失った。




「……おい、しっかりしろ」


うるせえな。
何回、俺を起こせば気が済むんだ。
これだから、善人ってやつは気にいらねぇ。


低く呻くと、頬を軽く叩かれた。


「しっかり。高谷君は無事保護したから」
「センセエ、そいつもう死んでんじゃねぇの?」
「ふざけたこと言うな、純。タオルかハンカチ濡らして、持ってこい」


タカヤ?保護?
そうだ。
あいつ、病院抜け出して、ここに来て。


沼田は、重い瞼をこじ開けるように、目を開けた。

「気がついたか、よかった」
「あいつ、タカヤは?あのやろう、一発ぶんなぐってやる」

ひどく、声がかすれていた。
まるで、半分、喉がつぶされたみたいだ。

あいつ、酔っ払い並みの馬鹿力だったからな。

そう思っても、腹を立てる気にもならない自分に、沼田は気づいている。


「それだけ元気なら、安心だ。酸欠で、脳に障害が残ったらまずいと思ったが」


沼田の額を濡れたタオルで拭きながら、心底安心したように、萩が、笑う。

こいつ、本当にお人好しなんだな。