玄関で物音がしたのは、沼田が二本目のビールのプルトップを開けた時だった。

「タカヤか?」


玄関の暗がりが、震える。


「ヌマタ、さぁん」

泣き声に、沼田は驚いて立ち上がった。

なんて、声だ。


水に溺れた子供が、必死に親を探すような、声。


足早に、玄関に向かう。


タカヤは、玄関口にうずくまって、震えていた。


明かりを、つける。

その光だけで、痛みを伴うように、小さく声を上げて、更にうずくまる。


「おい、タカヤ」


沼田は、タカヤの前にしゃがみこんだ。

頭を、撫でてやる。

冷や汗か、髪は雨にでも打たれたように濡れていた。


「このバカ。のこのこ帰ってきやがって。」


言いながら撫で続けていると、体育座りのようにして膝の間に埋めていた顔を、ようやく、上げた。