「おい、タカヤ。ここなんかより、あっちのほうがよっぽどいい暮らしだぞ。
まともな飯が食えて、やわらかいベッドで寝れる。炎天下でキンギョ売りなんかしなくてもいい。警察にぱくられる心配もない。
天国みたいじゃねぇか」

「でも、そこには、沼田さんがいないんでしょう?」

涙で頬を黒くして、タカヤが、沼田を見る。

「オレのこと、捨てるの?」


ああ。

なんとなく、沼田は気づいた。

タカヤにとって一番怖いのは、人に捨てられること。

たぶん、これまで、捨てられるばかりの人生だったんだろう。

だから、あんなに簡単に、コカインに手を出した。


夢なら、自分を、捨てたりしない。