ひとり感傷に浸るヒマもなく、校舎の陰からあたしを見つけた森村が嬉しそうにかけよってくるのが見えて、舌打ちをしてから背を向ける。


「師匠~、こんなところにいたんですか!
師匠!師匠ってば。何で無視するんですか。みどり先輩?
ねえねえねえねぇ」


絡まれないうちにさっさと立ち去ろうとしてんのに、あたしの顔を覗きこみ、しっぽふりふり回りを駆け回る安定の下僕犬。

せっかく気づかないふりしてんのに。


「うざっ。なんなのアンタ。
ストーカーなの?」

「俺はストーカーじゃなくて、愛のしもべです」

「キモイ、消えろ」

「ひでえ!今日も容赦ないっすね」


さりげなく触ろうとしてきたので蹴り飛ばすと、森村はヒドイとかなんとか言いながらもいつものように満面の笑みを浮かべている。

へんたいかっ。
さっきあんなことがあったばっかなのに、勘弁してよもう。

ただでさえウザイのに、いつもよりもさらにウザく感じるわ。


「そうそう、俺師匠にお願いがあるんですよ~」

「ヤダ、ムリ」


ニヤニヤしながら、お願いしたいことがあるとペコペコ媚びてくる森村を一刀両断。

聞かなくても分かりきってる。
こいつのお願いなんてどうせろくなことじゃない。


「まだ何も言ってないっす!
聞くだけ聞いてもらえませんか!」