燈牙は5階の部屋で寝泊まりすることも少なくない。
「眠ぃ……」
まだぼんやりとした瞳のこの男は、その表情さえも妖艶で色気を漂わせている。
「朝帰りなんかしてくるからだよー」
そんな燈牙に呆れたような樹里。
その言葉通り、燈牙は昨日の夜出かけたまま、朝まで帰ってこなかった。
朝帰って来たと思ったら、何も言わずに5階へ上がって学校も来ないままだった。
ったく、昨日出かけてから何してたんだか。
「……」
樹里の言葉を無視して部屋の一番奥に置かれている黒いソファに座って、その長い足を組んで小さく言葉を零した。
「……潮時だ」
たった一言。
それだけで空気が変わり、俺と樹里の顔が引き締まる。
まさか来て早々、この話か。
面倒に感じるが、こればっかりは仕方がない。
「覚悟しとけ」
燈牙の瞳が鋭く光った。
……どうやら、忙しくなりそうだ。