「そろそろ起きなさいよ!もう、次は無いからね!」


少し肌寒くなってきた朝。

お母さんの鋭い声が耳に聞こえた。



「はいはい。起きますとも。」


あたし、立花紗奈子(たちばなさなこ)。

中学2年生にしてはとてつもなく朝がすごく弱い。



目覚まし時計はとっくの昔に鳴っていて、鳴り始めてもう30分を経とうとしている頃だった。



「まだ時間余裕でしょ〜。」


なんてぶつぶつ言いながら時計を見ると、もうすでにいつもは準備が済まされている時間だった。



急いで支度をし何とか走って間に合った。


今日からまた一週間が始まる。



勢い良く教室の扉を開けるともうすでに沢山のクラスメイトが教室に集まっていた。


「おっはよ!また寝坊〜?」


と親友で幼馴染の近野海(ちかのうみ)がいつもと変わらず笑顔で駆け寄ってきた。


海は笑顔が可愛くて凄く美人。目がくりくりの二重で性格も明るくかなりモテるらしい。

正直、あたしは良くも悪くも何においても平均。海と並ぶと差が歴然としていて少し悲しくなったりもする。

なんて言うのは秘密なんだけれども。



「おはよう〜。」


まだ眠そうな返事をしながらもあたしは席に着いた。


「さな、ちゃんと佐々木誘った?!」


海はすかさずあたしの前の席に座り、小声で聞いてきた。


「まだそれが誘えてない、です。ごめんなさい。」


ふらっとしたように頭を下げ、机にゴチっとなすりつけた。



「好きなら押さないと!さな控えめすぎ〜。自信持たないと!」


海はこうやっていつも背中を押してくれる。



あたしは、今人生で初めて恋をしている。同じクラスの佐々木海斗(ささきかいと)に。


海斗とは小学校からの同級生で、今年初めて同じクラスになり好きになった。


海斗は一見、気が抜けたゆるゆるの性格で誰に対しても基本だるそうに話す。けれど、いつもみんなの笑っている顔を見て笑っていてその穏やかな横顔に惚れた。

優しさに溢れたその横顔に偶に少しおかしなことを言う面白さにあたしは恋をした。



「今日こそは誘う!絶対!いや、ん。あ、多分?」


「なーに、多分って!ちゃんと誘いな!」


はーい、としゅんと呟くと海斗が教室へ入ってきた。



運の良いことにあたしと海斗は斜めの席。海も同じ班であたしの隣は寺田哲志(てらだてつし)。中々、仲の良い班でこの4人で映画に行こうと誘おうとしていた。


海斗はいつも通りあたしの斜め前の席に座りふわっとあくびをした。


海は首であたしに行けと指示をし、席を離れた。




「ね、海斗!」


あたしが呼ぶと海斗はゆっくりとこちらに顔を向けた。


「ん?何、立花。」


「いや、あのさ。一緒に映画行かない?かな?あ、もちろん。海とてっちゃんもいるよ!」


海斗は元々でかい目を少し見開いてすぐ閉じた。

少し下を向いて


「次の日曜な。」


その言葉を聞いて一瞬夢かと思った。
すぐにはっとし、うんと返事をして海達のいる廊下へ出た。