俺は病院での診察を終え速く家に帰ろうと足を動かしていた。

ところが俺の足はピタリと止まる。なぜなら、病院の入口に浅香さんの顔があったからだ。

「翔君。今日こそ一緒に帰ろう?」

「何でいるの…?」

俺は率直な疑問をぶつけた。

「…翔君の様子が気になって抜け出して来ちゃった」

「でも…令志が…」

「令志君は関係ないよ。私が帰りたいだけ」

浅香さんの意図が分からない。令志という立派な彼氏がいるのに俺に絡んで来ている。

俺は内心イライラしていた。

「あのさぁ彼氏がいるんなら、そういう行動は慎んだ方がいいと思うよ」

つい強い口調で浅香さんにあたる。

「別に私の勝手でしょ?私は翔君と帰りたいんだよ」

「そーいうこと言われると迷惑なんだよね」

「私、迷惑な女だもん」

そう言うと浅香さんは表情を崩した。

久しぶりに見た浅香さんの笑顔は…俺には眩しすぎた。

「可愛い…」

つい口を割って出て来てしまった言葉。

その言葉が聞こえてしまったのか浅香さんは頬を赤らめた。

「いや…その…」

上手く言葉が出てこない 自分が作り出してしまった空気に支配されている。

「え?翔先輩に百合菜先輩じゃないですか?」

突如、病院に現れた桜花。俺は一目散に走って逃げた。

二人の静止の声も聞かず ただただ家目掛けて走っていく俺だった。

その場にいたくなかったのだ…。