「私、翔くんに嫌われちゃった……」

ある日、百合菜は俺にそう言って来た。水城 桜花が翔に告った日のことだ。

「素直に気持ちを表現できない自分が嫌になる」

百合菜はそう言って俺に愚痴をこぼす。

俺はそんな百合菜をそっと抱きしめた。

「令志君…やめて?そんな気休め…いらない」

百合菜は泣き出してしまった。

「若葉何てやめて俺と付き合えよ百合菜」

「……無理だよ。私の心には翔君しかいないの」

分かり切っていたこと。だけど……面と向かって言われると辛い。

「だけど……翔君の優しさが分かるまで付き合ってあげるよ?」

「はぁ?」

百合菜の思わぬ発言に俺は耳を疑った。

「翔君のこと悪く言う人がいると嫌な気持ちになっちゃうんだ」

「いいのか?俺が翔の優しさに気付かなかったらお前は永遠に俺の彼女だぞ?」

「すぐ別れちゃうよ?」

そう言って笑う百合菜を見て俺は複雑な気持ちになった。

その瞳の奥に俺は写ってない。

昔も今も……。

「翔くーん!!」

百合菜が大きな声で翔にエールを送る。

翔は一瞬驚いたような顔を浮かべて百合菜を見たが、すぐに笑みを浮かべ百合菜に応えた。

翔は、クラス選抜リレー予選の時よりも、速く感じた。

距離は確実につまってるが抜くまでには至らない。

残り50メートル。