「翔!雅也!」

昼休みは忙しい。次から次へと誰かがやってくる。

「紫音か?うわぁ…久しぶりだな。ずいぶん綺麗になっちゃって……」

雅也は感心したように紫音を眺める。

俺と雅也は幼なじみ。
俺と紫音は幼なじみ。

ということは、雅也と紫音もお互いの事を良く知っているのだ。

「雅也に用はないの!私は翔に用があるの!」

「俺に?」

「そう。右足出して。テーピングしてあげる。」

「もうしてあるよ」

昨日医者から教わった通りに俺はテーピングを巻いていた。正直、完璧だと自負していた。

「その巻き方じゃ、私の教えたフォームで走っても力の半分も出ないの」

そう言うと、俺の言葉を待たずに紫音は無理矢理に俺の足のテーピングを外し始めた。

かがんだ紫音の髪からいい香りが漂った。俺は頬が熱くなっていくのを感じた。

「よし!完成!」

紫音のテーピングは妙にしっくり来た。
これなら走りやすそうだ。

「紫音サンキューな!」

「これで負けたら承知しないよ?」

俺は体に戦慄が走った。

……負けられない。

心の底からそう思った。

「翔!」

クラスメイトに呼ばれた俺は雅也と紫音に別れを言って、声のした方へと向かった。