「なるほどねぇ…」

何故か俺が入れた茶をすすりながら紫音は頷く。
紫音はパジャマからすでに着替え終わっていた。

「運動神経抜群の紫音様なら何か秘策があるのかと思って……」

「ここに至ると」

紫音が俺の言葉を繋ぐ。

「はっきり言って…翔は令志を追い抜くことは出来ないね」

「……絶対?」

「絶対。元々の身体能力が月とスッポンだし」

はっきり言ってくれる。 俺は落ち込みそうだった

「だけど…」

紫音は続ける。

「ある程度の差なら逃げ切ることは可能ね」

「逃げ切る…?あまりかっこよくないなぁ」

雅也や渡が稼いだ差で勝ったって、ちっとも嬉しくない。

「贅沢言わないの。じゃあ少しでもタイムを縮める為に特訓しますか!」

そう言って不気味に笑う紫音を見て俺は心から恐怖を抱いた。

「今日だけだよね?」

「何言ってんの?体育祭まで、じっくりと付き合ってあげるよ」

浮かべた笑顔は可愛い。
だけど これから始まる地獄の二週間を思うと、紫音へのコーチ依頼は失敗かもしれないと思うのだった。