その頃真莉奈は義一に追いつきそうになっていた。
もうちょっとで届く!!
「ちょっと待ってよっ!!」
真莉奈はそう言って義一の腕を掴んだ。
「何だよっ!」
義一は激しく抵抗する。
「皆、義一の事が心配で、もとのよしに戻って笑ってほしいから、計画してやってるんだよ!?」
真莉奈は本当に必死な顔をしている。
「でもっ!…でも…笑えないんだよ…。ムクが死んだ瞬間を思いだしちまうんだよ…。忘れたいのに…忘れられないんだよっ!!どうすれば良いかもわかんなくて…」
「…。義一…。忘れちゃ…ダメだよ…」
「えっ!?」
真莉奈のあまりにも悲しそうな声と表情に義一は驚いた。
「過去にとらわれるのは良くないけど…忘れちゃったら…存在しないのと同じになっちゃうじゃん…」
「…。」
義一は言葉が出なかった。
その沈黙を破ったのは真莉奈だった。
「ごめん生意気言って…。わかってる…義一の気持ちに私はなれない。大切な物をなくす辛さもわからない…私はペットも飼ったことないし、兄弟もいない…。大切な物がどんな物か考えたことも無かった…。それが突然なくなってしまう事なんて尚更…。でも…落ち込んでため息ばっかついてる義一を見てるだけなんて嫌で!でも何も良いことを思いつかない無力な私に嫌気がさして…」
「お前…そんなに俺の事…」
真莉奈の気持ちを始めて聞いた義一は息が詰まった。
「迷惑でも良い。でも私がムクなら…。」
真莉奈はそこで一度言葉を切り義一の目を見て言った。
「義一にそんなに落ち込んでほしくない…」
「…。」
義一はしばらく黙り込み、少し悩んでから、ムクが何故死んだのか語り出した。
「ムクさ…散歩中に…ホントに…ホントに一瞬…リードを離しちまったんだ…。ムク…外…好きだから…一気に走って車道に出て…もちろん追いかけた…。でも目の前で…ムクが…」
真莉奈は言葉が出なかった。なんて声をかけて良いかもわからず…。
「親にも仕方ないって言われた。でも…俺があの時リードを離さなかったら…ムクは…。って思っちまうんだ。」
「…。」
「でも…ふっきらねぇとダメだよな…。よしっ!ありがとな!真莉奈!」
義一の声は前のような元気な声に戻っていた。
真莉奈はその声を聞いて純粋に嬉しくなり
「うん!良かった…」
と返事をした。