或る日マリーは公園のベンチに座る瑠璃子を目にする。
なにをしているんだろうと声を掛けるが元気がない、塞ぎこむ瑠璃子に心配になったマリーは訳を訊く。
瑠璃子から訳を聞いたマリーは、なんとかしてみると宥めると瑠璃子を施設へ返す。
マリーはどうしたものかと思案に暮れると奨学金制度の話を思いだし、
さっそく役所に相談に行くマリー、ところが役所側は公立なら出せるが私立には出せないという。
話はそれだけではない、なぜか『希望園』の責任者が矢野というだけで難色を示してくる。
理由を訊くが明確な返答をしない役所側。
そんな役所側の差別的な対応に抗議するものの責任者が変わらない限りダメだの一点張り。
マリーの知る限り矢野に前科があるわけではないし別段問題も見当たらない。
それどころか矢野は施設運営に身を挺していることを知っている、
だからこそマリーは寄付を続けている。
そこでマリーは矢野と話をする。

  矢野さん、瑠璃子ちゃんのことなら私の寄付金でなんとかならないかしら?

マリーの打診に矢野は手を横に振りながら、

  ダメや、マリーはん、あんたの気持ちはよう判る、
  それにあんたがこの施設に寄付してくれはるのは本当に有難いと思うとる。
  ワシかて瑠璃子を学校へ行かせてやれるものなら行かせてやりたいのや。
  せやけどなマリーはん、寄付の殆どは施設管理に消えてしまうんや。
  それに寄付金を瑠璃子にだけ使う訳にはいかんのや。

矢野の言うことも尤もだった、確かに瑠璃子一人のために使う訳にはいかない。

  せやから、ワシは瑠璃子に言うたんや、
  そないに学校行きたいんやったら自分で稼げ言うてな・・・。

  ふぅん・・・、自分で稼げか・・・。

ため息交じりに呟くマリー、自分で稼げと言ってもたかが十五歳の少女に何ができる。
できることなど何もありはしない・・・。
諦めかけたマリーは突然思いつく。

そうだ!
方法はある!
十五歳の少女がカネを稼ぐ方法!
それも比較的短期間でカネを稼ぐ方法がひとつだけある!

閃いたマリーは大声を上げる。

  そうだ! あるわ! ひとつだけあるわよ!

マリーの声に驚いた矢野は、

  なんや、いきなり大声出して、ビックリするがな。

怪訝な矢野にマリーは逸るように聞かせる。

  あるわよ、お金を稼ぐ方法!

  なんやて? カネを稼ぐ方法があるやて?

矢野は思わず笑い出す。

  フハハハハハ、何を言うとんのやマリーはん、そんなんあるわけないやろ、
  十五歳の小娘に何ができるんや? バカも休み休み言うてんか。

笑う矢野にマリーは真顔で言う。

  いいえ、あるわ、ねえ矢野さん、私アイデアが閃いたわ、聞いてくれる?

  アイデア? なんやそれ?

  あのね・・・。

マリーは閃いたアイデアを小声で聞かせる。
マリーのアイデア、それは自分の商売の応用だった、そしてそのアイデアを聞いた矢野は驚愕する。
  
  な、なんやて! あんた本気で言うとんのか!」

  ええ、本気よ、女の子が稼ぐにはそれしかないわ。

平然と言い放つマリーに一瞬言葉を失う矢野は、

  そ、それしかないって、なんぼなんでも無茶やで!

  そうよ、無茶かもしれない、でも、女の子がお金を稼ぐにはこれしかないわ、
  それとも他に良い方法でもある?

  い、いや、せやかてマリーはん、
  そないなこと、もしバレたらタダでは済まんで、
  あんたお縄頂戴になりまっせ! 
  それだけやない、話を聞いた以上ワシかて同じや。

  ウフフフフ、心配いらないわよ矢野さん、良い方法があるの。

マリーはバレない方法を具体的に聞かせていく。
それは人目に付かず、まさかと思う盲点を突く方法だった。

  うぅ~ん、なるほど、
  それならバレる心配はないやろが、場所はどうするんや? 
  そんな都合のいい場所あるかいな?

  私の店のオーナーが所有するマンションの部屋を借りるわ。

場所は住宅街の一室、これなら誰にも気づかれない。

  オーナーのマンション? オーナーはんがそんな話し引き受けるかいな?

  大丈夫よ、オーナーさんは人情に厚い人だから、
  訳を話せばきっと力になってくれるわ。

  う~ン・・・、せやけどなぁ・・・。

難色を示す矢野は腕組みしながら、

  問題は相手や、瑠璃子に当てる相手をどうするんや? 
  下手な奴当てたらエライことになるで!

  それも心配いらないわ、いい人を知ってるのよ。

瑠璃子に当てる相手は一人だけに決める、情報漏えい防止のための策でもある。

  ふぅむ、相手は一人に絞り込むか、なるほど、しかしなぁマリーはん、
  こんな話、瑠璃子がウンと言うかいな? まだ中学生やで・・・。

矢野の疑問は尤もだった、だが、それはマリーも承知の上のこと。

  そうね、きっと嫌だと言うでしょうね、
  でも、それならそれできっぱりと学校を諦めさせればいいじゃない、
  決して無理強いしない、それでいいんじゃないかしら?

マリーの話に一理あると考えた矢野は、

  せやな、それも一つの方法かもしれんな、
  それで瑠璃子がきっぱり諦めてくれればワシも楽やが、
  もしやな、瑠璃子がウンと言うたらどないする?

矢野の心配にマリーは笑みを浮かべる。

  そのときは覚悟を決めましょうよ、瑠璃子ちゃんだって
  ウンと言うからには相当の覚悟の上でしょうから、
  そんな瑠璃子ちゃんにあたしたちが覚悟を決められないんだったら
  話にならないわ、それこそ情けない話しよ、
  だから、あたしたちも覚悟を決めて力貸してあげましょうよ!

度胸の据わったマリーにたじろぐ矢野。
だが他に有効な方法がないことからマリーの案を採用するしかない。
実際問題カネを稼ぐにはそうするしかない。
こうしてマリーと矢野の謀議は成立する。