各父兄が案内係に誘導されテーブルに着く、
暫くするとそれぞれのテーブルに面接官が付く、面接官は全てこの学校の教職員達だ。
矢野と上岡も係に案内されると窓際の席に座らされる、
なかなか座り心地の良いソファだ。
暫くすると面接官がくる、キリッとスーツに身を包んだ知的な雰囲気の人物だ。
矢野と上岡は起立すると丁重に挨拶する。

  まぁ、そう硬くならずに、どうぞお掛け下さい。

面接官に促されて着席する二人。
面接官から改めて学校の詳細を説明されると、
矢野はカバンから願書と例の推薦状を差し出す。

  あの、これを・・・。

  あ、これはどうも。

願書と推薦状を受け取った面接官は、

  ちょっと失礼。

一言言うと推薦状を開封し閲覧する、暫く閲覧すると頷き始める面接官は、

  そうですか、成績に関しては申し分ありませんね、
  成績の良い生徒には広く門戸を開けるのが当校の趣旨です、
  どうぞ当校を受験されてください、ですが・・・。

言葉を濁らせる面接官に矢野は心配になる。

  あの・・・、なんでっしゃろ?

矢野をチラリと見る面接官は、

  既にご存知のことと思いますが、当校は私立であり公立と違って、その・・・、
  学費が少々嵩みますが、そこの辺りは・・・。

どうやら面接官は学費が払えるかどうかを気にしているらしい。
無理もない、いくら成績が良くても施設育ちの瑠璃子に学費を払えるかどうか疑問に思うだろう、
それだけではない、考えてみれば私立校は学校屋さんだ、
教育という商品を提供する一種の営利企業とも言える、
そうである以上、カネが払えないなら客ではない、
従ってそんな者に用はない。
上岡は心の中で思う。

カネ、カネ、カネ・・・。
カネがなければどうにもならない・・・。
まったく矢野の言う通り、世の中カネだ・・・。
カネがあればこの素晴らしい学校にも通える・・・。

上岡は面接官に笑みを浮かべると、

  学費の事でしたら御心配なく、当方で全てを負担させていただきます。

チラリと上岡を見る面接官は、

  そうですか、それなら結構です・・・、ところで、失礼ですが、御職業は?

今度は上岡の職業を訊いて来る、だが、上岡はすぐに判る、
面接官は上岡がきちんとカネを払える職業に就いているのか否かを踏もうとしている。
上岡はここぞとばかりに静かにハッタリをかませる。

  あっ、これは申し遅れました、私はここに勤務しています。

上岡はこのときのために用意した接客用の名刺を面接官に手渡す。

  株式会社R出版・・・。

呟くように名刺を読み上げる面接官は上岡を一瞥すると態度を変えてくる。

  そうですか、R出版と言いますと、あの有名な・・・。

上岡は静かな口調で、

  はい、その通りです。

  いや、これはマスコミ関係の方でしたか、少々お待ちを!

面接官は上岡が週刊誌記者と判ると名刺を持ったまま席を立つ。
暫くすると恰幅の良い人物と同伴してくる、
この人物はこの学校の理事と自己紹介すると上岡と挨拶し互いに名刺交換する、
そしてちょっとした会話が済むと理事は戻っていく。
席に着く面接官は上岡を見る目が違っている。

  どうぞ、是非ともお嬢様に当校を受験させてください、
  お嬢様の成績ならきっと間違いないと思います!

さっきとは打って変わって様子が違ってる面接官、しかも瑠璃子をお嬢様と敬称する。
奥であの理事と称する人物と何を話したのかは解らない、
だが、上岡は手応えを感じている、ハッタリの手応えを。
瑠璃子は間違いなくこの学校に受かる!
矢野と上岡は面談が終わると学校を後にしていく。
帰りの途中で矢野は、

  なんやあの面接官、途中で席を立って戻ってきたと思うたら、
  今度は是非とも受けろ言う、それに瑠璃子をお嬢様と呼びよった、
  あの瑠璃子がお嬢様でっせ、ワハハハハハ! 
  上岡はん、どない思います?

笑い出す矢野に上岡も笑い出す。

  ハハハハハ、ハッタリですよ、僕のハッタリが効いたんですよ、
  瑠璃子は間違いなくあの学校に受かりますよ!

そして月日は流れ、いよいよ念願のM女子高等学校受検の日が来る。