吉田は今度は菜花をじっと見た。


菜花は下を向いたまま動かない。


小さな体が震えているように見えた。



「ご、ごめん……!あたし、先に帰るね!」



「え?ちょ、菜花……?ドーナツはー?」



駆け出した菜花に吉田が手を伸ばす。


なんだよ、最後のドーナツは?って。


普通、こんな場面で言うか?



「って、俺が追いかけるから」



駆け出そうとした吉田の肩を掴むと、俺は教室を飛び出した。



今まで適当に生きて来たけど、それじゃあ菜花は手に入らない。


あいつは……いつもすっげえ寂しそうに笑う。


その理由が俺にはわかんねーけど、なんか重いもんを抱えてるんじゃねーかって直感で思った。


すっげえ重くて複雑なもんを抱えてんだろ?



菜花の悲しそうな顔はこれ以上見たくない。


いつか……いつかさ。


俺に話してもいいって思える日が来るまで、待ってるから。


俺、頑張って変わるから。


変わらないでいてって言われたけど、それを聞いて、そんなわけにはいかねーって思わされたんだ。


変わんなきゃなんねー。


俺は今のままじゃダメだ。


菜花に頼られるほどカッコ良い男になんなきゃなんねー。


そのためにも、努力しなきゃいけねーんだ。