「そりゃ…私なんてあの人に比べたらガキだよね」



まだ高校生で、もちろん未成年だし。

佳奈恵さんみたいに化粧も覚えてない。
化粧したところで、あんな風に清楚になれない。

声だって可愛くない。

身体は寸胴でくびれなんてないし、デコルテだってあんな綺麗じゃない。

体型も容姿も中身も、佳奈恵さんに比べたら本当に子供。子供過ぎて惨めなぐらいだ。


そんなの言われなくたってわかってる。
だけど、皐月にはあんな風に言われたくなかった……



「泣く時は俺の腕の中だけにしろって言ったくせに」



隣に皐月はいない。
また、ひとりぼっちになっちゃったんだ。


頬を流れる涙をぐいっと思いっきり拭う。
だけど、次から次へと流れてくる涙を全て拭うことは出来なくて、それは口の端から口内に浸入してきた。



「しょっぱ……」



涙ってこんなにしょっぱかったっけ。

これまでの人生、たくさん泣いてきた。
だけど、最近は皐月が私の涙を拭ってくれていたから、涙がこんな濃い味だったなんてすっかり忘れてた。



「皐月の馬鹿……大嫌い」



震える唇から漏れた本音とはかけ離れた気持ちが、雨雲で覆われた空に消えていく。

虚しくて、寂しくて、悲しくて。
もう涙を拭うことすら面倒臭くなった時。



「お前、俺の事大嫌いなの?」



突然、木の下から大好きな声が聞こえて心臓が跳ね上がった。



「さ、皐月っ……なんでここに…」

「彩が帰って来ないから探しに来たんだろ?」

「だからなんでっ……か、佳奈恵さんは?」



ずっと会いたかった皐月が目の前にいるというのに、嬉しいよりも怖い気持ちが上回ってる。

だってそうでしょ?

昼間、意味もわからずあんな冷たくされて……
他の女性と仲良くしてるところを見せつけられて。

怖いわけないじゃない。