洋平の声や表情には一切悩みなんてない。

もう前だけを見てる。
覚悟を決めた男らしい顔付きにドキッとした。



「だから諦める人生をやめて、これからは臨む人生にする。気持ちで負けたらそれで終わりだろ」

「臨む人生、か」



立ち向かう。運命に、未来に。



「俺があいつらの光になる。皐月兄ちゃんが俺のそれだったように」



兄のような、父親のような、そんな眼差しでバザーを楽しむ子供達を見つめる洋平。


凄く凄く格好良く見えた。
それと同時に置いて行かれたようにも思えて、ちょっぴり悔しくもあった。



「私も頑張ろ」



決めた。私も大学に進学しよう。

まだやってもないのに諦めてどうするの。


幸せになるって決めたんだ。

もう運命とか、不幸の星の下に生まれたとか、マイナスに考えるのはやめて、前だけを見る。



「洋平、ありがと」

「は?なんだよ」

「べっつに〜」



意味がわからないと言わんばかりに首を傾げる洋平に、ふふふと笑って返す。


ポケットの中の進路調査票。
最初は破って捨ててしまいたいぐらい重かったのに、今では羽が生えたように軽く感じる。


皐月は喜んでくれるかな。
頑張れって応援してくれるかな。


皐月に早く報告したい。
きっと飛びっきりの笑顔で抱きしめてくれるはず。



「ニヤニヤしてキモい」

「キモいって何よー!」

「また皐月兄ちゃんのこと考えてたんだろ。変態」

「はあぁ?キモいとか変態とかマジ何なの?」



施設の中で唯一の同級生。
私の仲間。

洋平とは、いつまでもこうやって兄弟のようにじゃれ合っていたい。

強くそう思った。