「お母さん、私、今年こそ

お母さんにお願いがあるの」






「恵梨奈、

お願いって、何?」






「お母さん、じつは私ね、

海に行ってみたいの。




私はまだ、

海に行ったことがないし、

おばあちゃんの家は、

海のすぐ近くでしょ。




私、今年こそは

お母さんと一緒に……」






「ダメよ、恵梨奈。




海ってね、

とっても怖い場所だから、

恵梨奈が行くところじゃないわ」






「そんなことないよ、お母さん。




海くらい、みんな行ったことが

あるんだから。




和美ちゃんに、靖子ちゃんに、

瑞季ちゃんに、亜紀ちゃんに」






「恵梨奈、ダメなものは

ダメなのよ。




恵梨奈は子供だから

わからないのかも

しれないけれども、

海ってね、

本当に怖いところなの。




お母さんは、そんなところに、

行きたくないわ」






「でも、お母さん……」






「恵梨奈、このお話は

もうおしまいね。




恵梨奈が、

あんまり駄々をこねたら、

おばあちゃんのお家にも

行かないわよ」






私はそう言って、

ようやく恵梨奈を諭した。






私は決して、海になんか

行きたくない。






海には、

辛くて、悲しい思い出しか

ないから……。