オレは魔裟斗と速水とのそんな事は露知らず、今日も佑宇真と一緒に帰っていた。
『魔裟斗』の姿なのが、不満だが……。
「寧々、生活に不自由はしてないか?もう大丈夫か?」
「うん。もう大丈夫だ。」
佑宇真は優しい。
「そうかぁ。良かった。」
家まで着いた時に
「佑宇真、ウチ寄ってくか?」
と、そう聞いた。
「うーん。じゃあ、少しだけ寄らしてもらうとするか。」
オレは心の中で『やった~!』って思いながらも、表情や口には出さないようにしてた…つもりだった。
「寧々、嬉しそうだな。」
佑宇真に突然、そんなことを言われてしまい、焦ってしまった。
(オレ、そんなに表情や態度に出てた?)
慌てふためいていると、リビングから、笑い声が聞こえてきた。
(あれ?誰か、お客さんかな?)
そう思ってリビングを覗いたオレは驚いてしまった。
何とせり姉が母さんと笑い合って、話していたからだ。
「あっ、やっと帰ってきた。」
母さんはオレを見て、そう言った。
「せり、魔裟斗が帰って…、あっ、佑宇真くんもいるの?」
「マサくん、久しぶりね。元気にしてた?」
「う…うん……。」
(ああ、今日はウチに佑宇真を呼ぶんじゃなかったな……。)
オレは内心、後悔してた。
「もしかして、ユウくん!?大きくなったわね。」
「せりさん、久しぶりです。」
佑宇真は憧れの大好きな人がいて、嬉しそうだ。
「あっ、佑宇真、オレ…じゃなかった、ぼ…僕、自分の部屋に行ってるね。」
「じゃあ、俺も行くよ。」
「いいよ。せり姉さんと積もる話でもしなよ。」
「じゃあ、みんなでしよう。なっ?」
「そうしましょう!」
「…………」
オレは今はそんな気分じゃなくて、無言になってしまった。
「魔裟斗、どうしたんだ?」
「僕、気分悪くなったから、やっぱり部屋に行ってるね。」
そう言って、オレは魔裟斗の部屋に入った。

オレはベッドに寝ていた。
佑宇真のせり姉への気持ちに気づいたのは、オレが中学生の時。
昔から、オレが『好みのタイプは?』って聞くたび、『せりさんが理想の女性』と言ってきた佑宇真。
でも、それが『恋愛感情』になってしまうなんて……。
いつからか、せり姉を見る目が『男』になっていった。
オレはそれが切なくて、苦しくて……。
せり姉が地方の大学に行くと聞いた時、正直、嬉しかった。
こんなこと思うのは、卑怯かもしれないけど、佑宇真の『想い』が、近くにいるオレに向いてくれるんじゃないか?って考えてた。
でも、今日の佑宇真の様子を見て、確信した。
まだ佑宇真の『想い』はせり姉に向いてるんだって……。
胸が痛い……。苦しい……。辛い……。切ない……。
でも、しょうがない。しょうがないんだ……。

「ええっ!?せり姉さん、結婚するの!?」
オレは驚きを隠せなかった。
せり姉が結婚。
相手は教師だという。
「うん。とてもいい人でね、みんな気に入ってくれると思うわ。」
そうおっとりと話す。
それを知ったら、佑宇真はどうするんだろ?
それとも、今日、せり姉が話して、もう知ってるのかな?
知ってるとしたら、佑宇真は今、何を思ってるんだろう?
そう思うと、ちょっぴり切なくなった。