オレ(外見は魔裟斗)と佑宇真が『両想い』になって、数日。
その日も、放課後、オレは佑宇真と一緒に帰っていた。
佑宇真と一緒にいられて、幸せを噛み締めていた。
だけど、それと同時に、複雑な思いも持っていた。
『今、佑宇真が好きなのは魔裟斗の姿のオレ』
中身は寧々のオレとは知らずに、佑宇真は好きでいる。
もし、仮に今、『秘密』を話したところで、記憶のない佑宇真が、こんな『非現実的なこと』を信じてくれるだろうか?
それはちょっと…いや、かなり、あり得ない話だった。
『常識人間』の佑宇真が、こんな話を信じてくれるはずがない。
それどころか、逆に気をつかわれて、
『病院に行けよ。』
そう言われるかもしれない……。
(そんなことを言われるのは嫌だ。)
それなら、いっそうのこと、佑宇真には『秘密』のままにしておきたい。
そして、この『関係』を続けていきたい。
オレはそう思っていたのだった。
そして、今日、帰るのは、佑宇真と二人っきりじゃない。
お邪魔虫が二人。
なぜか、寧々(中身は魔裟斗)と速水も一緒だった。
いや、魔裟斗はお邪魔虫じゃないが、速水がいるのは解せない。
魔裟斗と速水が、オレだけに、何やら『話』があるようで……。
だが、その内容までは聞いていない。
最近、魔裟斗と速水の仲がぐっと良くなったように見えるのは、オレの気のせいじゃない。
今だって、まるで、『恋人同士』のような感じだった。
最近、寧々(中身は魔裟斗)は、やたら綺麗になったような気がする。
自分の身体なのに、自分の身体じゃない錯覚までするようだった。
やっぱり魔裟斗は速水のことが、そういう意味で『好き』なんだろうか?
今日は佑宇真を除いて、オレと魔裟斗、速水で、話しをするという話だったから、そこのところをきっちりと聞かなければならなかった。
もし、魔裟斗が速水と『両想い』なら、速水のヤツはオレの身体をあちこち触りまくっているに違いない。
オレはそんな嫌なことを考えていた。

「…で、寧々ちゃん、速水くん、話しはなんなの?」
オレは、『魔裟斗』の口調でそう聞いた。
すると、速水は開口一番、
「『魔裟斗の姿』で、お前がそんな口調するのは、かなり気味悪いぞ、『優木寧々』。」
そうしかめっ面で、オレを見て、そう言ったんだ。
「なっ、何で、その事を知ってるんだ!?」
そう言うと、オレは、口をパクパクさせながら、ただただ驚くしかない……。
だが、速水が知ってるってことは、『秘密』をしゃべったのは『魔裟斗』しかない。
魔裟斗に文句と速水に『オレたちの秘密』を暴露したことを怒ろうと、オレが口を開きかけた時、
「あっ、言っておくが、『魔裟斗は秘密はきちんと守ってた』ぞ。」
速水がきっぱりと、そう言い切った。
「じゃあ、何で、速水が『その事』を知ってるんだよ!?」
(魔裟斗が速水にしゃべったのではなかったら、どうして、速水は『オレたちの秘密』を知ってるんだよ!?)
オレは、心の中でそう思っていた。
オレの心の内は、表情に表れてたのだろう。
「俺が気がついたんだよ。コイツが『魔裟斗』だってことにな。」
速水は淡々とそうしゃべった。
だが、オレはそこが『疑問』だった。
佑宇真は『幼なじみ』で、物心ついた時からの仲だ。
だからこそ、『オレたちの秘密』に気づいてくれた。
でも、速水は違う。
こう言ったら、魔裟斗に悪いが、赤の他人だ。
それが、なぜ気づくことができたのか?
その『疑問』を速水は、度肝を抜く発言をして、答えた。
「俺は『魔裟斗』が好きだからな。」
と……。
オレの『一抹の不安』は的中した……。
やっぱり、魔裟斗と速水は……。いやいや、ここは聞かなければならないことがある。
「おい、速水。」
「何だよ?」
速水は、何か、文句でもあるのか?的な返事をする。
「お前、魔裟斗が『気弱』なのをいいことに、オレの身体、あちこち触りまくってないだろうな?」
オレはそこまで言ってから、頭の中で、一瞬、想像してしまった。
(まさか、あんなことやそんなことまで……?)
オレがそこまで、想像していた時だった。
今まで、黙っていた魔裟斗がやっと口を開いた。
「速水くんはそんないやらしいことはしてないよ。だって、寧々ちゃんのことを考えて、キスだってしないでいてくれてるんだよ。」
オレの姿の魔裟斗と速水のキスシーン……。
(あんまり、想像したくない……。それより、嫌かも……。)
でも、オレも魔裟斗を責める資格はないんだよなぁ。
だって、佑宇真とも、唐澤先生とも、キスしたし……。
佑宇真にいたっては、『両想い』になってから、実は、何度もキスしてる。
今の佑宇真は、いやに積極的で、オレがたじたじしている。
「優木寧々、顔赤いぞ。何、考えてるんだ?」
速水にそう切り込まれて、オレは一瞬、焦ってしまった。
「…なっ、何もっ。何も考えてないよっ!」
しどろもどろに答えてしまった。
「どうせ、お前は冴樹とキスしてるんだろ?」
と、不敵にニヤリと笑った速水にズバリと言い当てられてしまった。
その瞬間、佑宇真とのキスを思い出して、オレの顔は真っ赤の完熟トマトのようになってしまっていた。
「ええっ!?寧々ちゃん、そうなの!?」
魔裟斗にも突っ込まれてしまった。
オレは二人にそう言われて、何も言えない……。
オレのほうが、魔裟斗と速水に聞くはずが、逆に、オレのほうが聞かれてしまっていた。
でも、そんなオレの様子を見た速水は、
「冴樹って、意外と積極的だろ?」
そんなことまで、またまた不敵に笑いながら、ヌケヌケと聞いてくる。
オレは、速水のその無神経な言い草にカチンッときた。
でも、ここで、怒ったら、速水の思うつぼのような気がして、オレは黙っていた。
「いつもみたいに、言い返さないんだな。」
速水は、拍子抜けしたような表情になって、そう言った。
「その事はもういいだろう?」
オレがそう言うと、
「全然、良くないよ!」
魔裟斗がそう口を挟んでくる。
「だって、今、佑宇真くんは記憶がないんだよ。寧々ちゃんのことを『僕』だって思い込んでるんだよ。もし、仮に『元に戻った』ら、どうするの!?それに…、寧々ちゃんもずっとこのままでいいの?佑宇真くんに『秘密』のままにしておいて……。」
魔裟斗がそこまで言って、オレを真剣に見つめてきた。
(だけど……。オレは……。)
いつもなら、そこまで言われたら、言い返すのだが、その時は、なぜか、言い返すことができなかったんだ。